「きみが日本に行くって言った時、すごく慌てたんだ。何だかもう帰ってこないんじゃないかなんて……悶々としてたらアレクセイから電話がきて、ロジァがつまらないらしくて日本に行ってみたいって言ってるとか聞いて渡りに船ってやつで、ケンに逢いたいばっかでさ、パーティとか色々あったけどほっぽって飛んで行った」
そんなハンスの言葉にケンの心は甘く疼く。
「けど日本じゃ、何となくきみに触れるって雰囲気じゃなくて、可愛い女の子もいたし、ひょっとして、暗に俺避けられてるのかなとか思って」
「ハンス……俺……」
「俺の存在がきみに迷惑をかけているだけなら、諦めた方がいいかなんて思ったり……けど、さっき夕方、通りの向こうにきみがいた気がして、そしたら、もう会食とか何とかどうでもよくなって、来ちまった」
「ごめん、ハンス、さっきの……ウソ…ほんとは夕方、行ってみたんだ……逢って話さないとって思って……でも女性をエスコートしてどこか行くみたいだったから……」
するとハンスは柔らかい笑みを浮かべた。
「やっぱり俺の目がおかしくなったんじゃなかったんだ。さっきは仕事の打ち合わせを兼ねた夕食会に行くとこだったんだ。彼女は取引先の総責任者だよ、ただの」
「ただのって、そんな大事な会食放ってきたのか?」
「俺にとってはきみの方が大切だから」
「それ……困る……俺なんかのために……俺……」
ケンは眉を顰めた。
「俺こそハンスのお荷物になっちゃうんじゃないかって、つきあうなんてできないって言わなけりゃって。でもほんとは、俺もどれだけでもハンスと一緒にいたい。いられるだけ。ハンスが好きだ。でも怖くて、こんな、ハンスのことばっかで頭がいっぱいになってしまうなんて、自分がコントロールできないなんて、そんなのって…」
いつもの理路整然とした言葉が出てこない。
だがそんなケンをハンスはきつく抱きしめる。
「アレクセイのことを忘れられるのかって言ったよな。正直、忘れられるとは思えない」
ハンスの言葉にケンの心は揺らぐ。
「だけど、アレクセイの時もブリュンヒルデが去った時も、俺はただ見送るだけだった。でもケン、今度はただきみを見送るなんてできなかった。どうしても追いすがってもきみが欲しかった。離したくないんだ」
くすぐったくもストレートな言葉はケンの心の奥底まで沁みていく。
ただし、ケンを大切にしたいと言うハンスだが、情動に逆らうつもりはもうとうなかった。
シャワーを浴びているケンを後ろから抱きしめたハンスはまたその身体を嬲り始める。
「や……もう、ハンス……やあっ!」
ケンの方もハンスの腕に引き込まれると、甘く泣かされるばかりだ。
「……俺としては、普段冷静なケンが目いっぱい乱れてるとこもっと見たいな」
「何いって……あ、ちょ……そこ、やっ……! あっあっ…!」
「可愛い……ケン」
しばらくは恋という甘美な蜜の箱から出たくはない。
それでも時間は過ぎていくし朝は来る。
「仕事なんかあいつらに任せて、宇宙局の見学に行くとかしたいな。ダメ?」
コーヒーを前にそんなふざけた台詞を口にする大の男に、ケンはさすがにため息をついた。
「却下」
「冷たいな。夕べはあんなに可愛かったのに」
コーヒーを吹き出しそうになるのを何とか堪えたものの、ケンは赤面するのを阻止する手立てがない。
「ジョーの散歩、行ってくる」
それをごまかすようにケンは立ち上がる。
「俺も行くよ」
ハンスは何だか片時も離れないといった感じで、ケンにしてみればジョーがもう一匹増えたような状況だ。
木陰には残っているが積もるほどの雪ではなかったようだ。
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