以前、工藤が部屋のクローゼットに放り込んだものの中に、腐るような代物があったらしく、片付けるのに往生したのだと、軽井沢の平造が言って来たため、結局良太がオフィスで中を確かめてからクローゼットに運ぶことになった。
去年も大変だった。
それに、何をとち狂ったか、俺、工藤にプレゼントなんかしたんだっけ。
良太は思い出して、ひとり頬を赤らめる。
バレンタイン商戦のニュースが終わり、CMに切り替わった頃、炬燵の上に置いた携帯がワルキューレを奏でた。
「はい、お疲れ様です」
「加藤は何か言ってたか?」
「いえ……、秋山さんやうちと何か関係あるのか気になって聞いてみましたが、何も関係ないし、心配することはないと」
「そうか」
「あの、秋山さんは何て?」
良太は切られる前にと工藤に聞いた。
「ああ、スキー場で会った秋山のクラスメイトが事件に巻き込まれているらしい。さらにその本人もDV夫から逃げてきたって話で、小田を紹介したようだ」
「え、DVですか」
先日、妹の亜弓の同僚がDVで離婚したとかいう話を聞いたばかりで、他人事ではないような気がする。
「今日は高輪の方に行く。明日は朝イチで大洋ホールディングスだ。夕方からのコリドーには顔を出す」
「わかりました」
電話が切れると、工藤の朝食を用意しなくてもいいことに、良太はちょっとだけガッカリ感があった。
「ま、今に始まったことじゃないし」
風呂にのんびり浸かりながら良太はボソッと呟いた。
「それより、俺、簡単にモリーに調査なんかさせて、危ないこととかないよな」
身長は良太よりちょっと高いくらいで、引き締まっているから、どちらかと言うと童顔ということもあって、森村は一見ひ弱そうなその辺を歩いている学生とさして変わらなく見える。
だが、服を脱げばあちこち傷跡もあるし、シールズにいた頃から比べるとかなり筋肉が落ちているとは言うが、鍛えられた身体であることがわかる。
「他の連中なんか俺の倍もありますよ、横も厚みもすんげえのなんの。俺なんてチビだから、最初はついてくのに必死だったけど、今もいい仲間ですよ」
にこにこと話す森村は、その人懐こさからもきっとどこでも可愛がられていたんだろうことは推し量ることができる。
「モリー、何でもやってくれるからつい頼んでしまったけど」
アルバイトなのに何でも頼んでいいわけじゃないよな、と良太は反省して大きく溜息をついた。
翌朝八時頃、良太は佐藤がDV夫から逃げているらしいと伝えた上で、くれぐれも無理はしないようにと森村にラインでメッセージを送った。
すると森村は既に車で軽井沢に着いていて、コンビニでサンドイッチを買ってきて食べているところだと返事をしてきた。
『ご心配なく。とりあえず観光気分であちこち回ってみます』
良太は思わず、はあ、と大きく息を吐く。
「ほんと、気を付けてくれよ」
午前中は、午後イチでパワスポの会議があるので、たまっていたデスクワークをやってしまおうと良太はキーボードを叩いていた。
ちょうど十時頃、オフィスのドアが開いた。
「こんにちは」
笑顔で入ってきたのは、スキー合宿でも一緒だった三田村だ。
「あら、三田村さん、いらっしゃい」
鈴木さんが立ち上がった。
「桐島のバレンタインコンサートのチケット、持って来たんや」
「え、バレンタインコンサート?」
良太も立ち上がって、三田村をソファへと促した。
「忙しいとこ悪いな。このコンサートがあるんで二月いっぱい珍しう桐島が日本におるんや」
三田村はブリーフケースからチケットの束を取り出した。
「友人知人にご招待券配ってくれて、桐島に言われとってんけど、スキーん時はチケット忘れてしもたし、ここんとこ忙しゅうて慌てて回っとるんや。十四日の夜やねんけど、半蔵門のコンサートホール、行ける人おる?」
コーヒーを持って来た鈴木さんは、「あら、すてきね」とチケットを見た。
「ご都合あえば、ぜひ。ご招待券なんで」
三田村が焦っているらしいのは良太にもわかって苦笑した。
「十四日か、ちょっとスケジュールわからないけど、行けたら」
たまには優雅にピアノ聴きに行くとかしたいよな。
あくまでも良太の願望である。
back next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます
