「でもチケットが余って、もし時間が合えば、鈴木さん一人で行くって言うし、俺も一緒に行こうかな」
ま、俺の場合、寝ちまうのが関の山だけどさ。
良太はどうせ忙しいだろう誰かのことはあえて考えずに、そんなことを呟いた。
「そうだ、小笠原、美亜さんと行くかも」
他の面々にも声を掛けてみないと。
ラインで小杉や志村、奈々や谷川に聞いてみたところ、スケジュールが合わないらしかったが、小野万里子井上俊一夫妻が行きたいとメッセージを送ってきた。
もしかしたらということもあるので、秋山とアスカの分二枚を保留にして、あと五枚については『コリドー通りでよろしく』のロケに持って行って、小笠原や宇都宮に聞いてみることにした。
WBCが目前に迫って来たため、『パワスポ』の会議が長引いて、良太が新宿のKOプラザホテル近くのロケ地に着いた時には、既に工藤が来ていて坂口と並んで撮影を見ていた。
ちょうど宇都宮と川野さくらが夜の歩道を二人で歩くというシーンで、事件の合間の二人が距離を縮めようとしているという内容である。
宇都宮と川野というどちらもベテランだが人気俳優のロケとあって、大人数ではないが人だかりもできており、あらかじめ撮影前にスタッフが注意を呼び掛けている。
ところが撮影途中で人だかりの方で誰かが大きな声を上げたため、カットがかかり、良太は慌ててそちらの方に飛んで行った。
「何するんだ!」
「てめえが押したからだろ」
良太が行ってみると二組のカップルが小競り合いをしていた。
「恐れ入ります。どうかなさいましたか?」
するとリーマンらしきスーツの男が、「こいつらのお陰で彼女、転んでしまって」と言う。
「だからお前が先に押したんだろうがよ!」
学生風のカップルの男が喚く。
「申し訳ございません、そもそも我々が皆様の通行のお邪魔をしてしまってて。お怪我はございませんか? 救護班がおりますのでどうぞこちらへ」
良太が丁寧にリーマンカップルを促すとスタッフが来て二人を連れて行く。
「お二人も、念のためにご一緒にどうぞ」
次に学生風のカップルに声をかけると、「いえ、私らは大丈夫ですから。お騒がせしてすみません」と女の子の方が謝った。
「大丈夫ですか?」
そこへ宇都宮がやって来て声をかけた。
途端、女の子は「きゃあ、ナマ宇都宮!」と小さく悲鳴を上げる。
「皆さん、お邪魔して申し訳ありません。撮影、もう少し続きますので、どうかよろしくお願いします」
今度はざわめき始めた人だかりの方に向ってそう言うと、宇都宮は深々と頭を下げた。
ざわめきはどよめきに変わり、宇都宮がロケ隊の方に戻って行くと、やがて静かになった。
その様子を見ていた坂口が、「さすが良太ちゃん。お前の弟子をもう超えとるんじゃねぇか? 怒鳴り散らさずに場を収めるとか」などと、隣の工藤に耳打ちした。
「いやあ、俳優陣もいつのまにか良太ちゃんペースに合わせられてるし」
フン、と鼻で笑う工藤に、坂口は付け加える。
坂口の言葉を裏付けるように、救護班に擦りむいた膝を手当てしてもらった女性には、川野が歩み寄って声を掛けていた。
リテイクとなったものの、皆が少し冷静になれたようで、スムースに撮影は進んだ。
あらためて休憩になったところで、小笠原と美亜にバレンタインコンサートの話をすると二人は映画をやめてコンサートに行くことにしたようだ。
良太は川野にも聞いてみたが、スケジュールは埋まっているらしい。
あと三枚か。
「宇都宮さん、ピアノのコンサートって興味あります?」
忙しいだろうとは思ったが、ダメモトで良太は宇都宮に声を掛けた。
「何? デートのお誘い?」
みんなの前で平然とそんなことを言う宇都宮だが、当然ジョークとしか取られていない。
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