ACT 3
夕方の生徒会室では、創立祭の準備のために各クラス委員を招集し、生徒会総動員で冊子やPOPを作ったり、SNSなどで広報する作業が行われていた。
志央はここ数日機械的に体を動かしていた。
もう何もかもがどうでもいい。
頭は空虚で、考えるのを拒否していた。
何かの拍子に心のどこかを突かれたら、その場にくずおれて二度と立ち上がれそうにない。
幸也とも何ごともなかったように接している。
幸也という友達を失いたくはなかった。
美央が死んで、立ち上がれそうにもなかった志央を支えてくれていたのは幸也だ。
だけど、七海への思いとは違うのだ。
黙々と作業が続けられる中、幸也の携帯がその場に不似合いな可愛い着メロを奏でた。
「ああ、……そうか、わかった」
創立祭の進行表をパソコンの画面で追っていた志央は、携帯を切った幸也に目を向けた。
「志央、新聞部の西本から、今度の選挙のことで話があるそうだ」
冷静な言葉の裏に、かなり由々しい事態だと言っているのが幸也の厳しい視線で志央にもわかる。
「近藤が陵雲学園の制服を着た学生数人とM公園に向かったらしい」
生徒会室を後にすると、幸也は小声で志央に告げる。
二人は坂の下まで駆け下りると、タクシーを捕まえて直接公園に向かった。
今にも雨が降り出しそうにどんよりとした空がフロントガラスの向こうに広がっている。
暗い夜の予感は不穏な思いを呼び覚ます。
人の顔の判別ができない夕闇の中、木立の生い茂る公園は尚一層薄暗い。
「あっち、人影があるぞ!」
「お前はそこに隠れてろ。顔を見られるとまずい」
幸也はそう志央に言い置いて、小さな池の向こう側へと走る。
数人の影が二人の足音に気づいて逃げ出したが、その行く手には先にバイクで来ていた大山と西本が待ち構えていた。
隠れていろといわれて、隠れていられる志央ではない。
目を凝らすと、木の根元に誰かが倒れている。
志央は近づいて、ぼこぼこにされて倒れているのが近藤だと確認すると、すぐに携帯で救急車を呼んだ。
救急車の音が近づいてきたので、志央を残してあとの三人はその場を離れた。
志央はたまたま倒れているところに通りかかったのだと、駆けつけた救急隊員に説明した。
その夜、堺と松永を帰した生徒会室に、病院まで近藤に付き添っていた志央が戻ると、公園から先に戻っていた幸也、西本、大山が硬い表情で集まっていた。
「近藤は足を骨折していたが、脳の検査もとりあえず異常はないらしい。だが、相変わらずだんまり」
近藤をぼこぼこにしたのは、やはりいつぞや屋上で暴行を働いていた三人だった。
「こっちもだ」
救急車が到着する前に、大山、西本と幸也が逃げようとした三人を捕まえた。
だが何を訊ねても、相変わらずへらへらしているだけで口を割ろうとしない。
結局三人を放すしかなかった。
「やつらに志央の顔見られなかったろうな」
ぽつり、と幸也が口にする。
「多分…な。だが、お前はわかっちまったかもな」
大山が難しい顔を向ける。
「俺はいいさ。だが影の番長さんが生徒会長じゃまずいだろ」
幸也が志央を見た。
「陵雲学園の華ですからね、城島さんは」
「はねっかえりの華もいいとこだぜ」
まじめな顔で言う西本に、幸也は苦笑いを返した。
腕組みをしたまま志央は眉をひそめる。
「何が華だ。とりあえず近藤にはもう一度あたってみるが……」
「情報網はあちこちに張り巡らしてあるんで、何かあったらまたすぐ知らせます」
西本が言うと、三人は無言で頷いた。
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