「……ああ。そう…だ………」
絞り出すような志央の言葉を耳にした七海はしばし二人を睨みつけ、唇を噛んだ。
やがて何も言わず、七海は部屋を出て行った。
「ほんと、サイッテーだよ、あんたたちって」
辛辣な台詞を残して、勝浩も去った。
震える手を机について支えようとしたが志央は膝からその場に崩れてしまう。
「志央……」
志央の尋常でないようすに、幸也は慌てて駆け寄る。
「……抱けよ…幸也…」
「おい、志央…」
もう、どうでもいい。
もう……終わったんだ。
慌てる幸也に、「抱けって」と志央はガクランを脱ぎ始める。
「やめろ!」
止めたのは幸也の方だ。
「抱きたかったんだろ? 俺を…」
その言葉は、恐ろしいほどの強さで幸也の心を突き刺した。
「………悪かったよ、俺は…」
「抱かないのか? 今さらだろ…」
志央はぼんやりと宙を見据えている。
「罵り合ったって、どうせ、俺たちは同じ穴の狢だ」
冷え切った言葉を吐いて、志央は膝を抱える。
「やらないのなら、……ひとりにしてくれないか」
「志央……」
志央の目から涙が零れるのを見て、幸也は戸惑い、その場に立ち尽くす。
「頼むから……」
幸也はもうそれに逆らう術を持たなかった。
志央を残し、静かに生徒会室を出て行った。
「ほんと、サイテー…」
自業自得だ。
志央は無闇に髪を搔き揚げる。
自分に対する憤りがおさまらない。
こんなに好きだったんだ、俺。
七海が………。
そうだ、美央のこと、忘れるくらい……。
七海とならずっと一緒に生きていけるような気がしたのに。
心に、ザックリ穴が空いている。
もう、美央も、七海までが手の届かないところに行ってしまった。
もう……生きていたくない。
歩きたくない――。
バイクを走らせながら七海は志央の残像を振り切ろうとするが、普段クールな生徒会長のはずの志央が見せた笑顔が頭の中から消えてくれない。
何もかもが嘘っぱちだった……
キスも嘘っぱちだった。
笑顔も……。
ハ…、やっぱ俺みたいのにあの人が本気で近づくわけ、ないか…
ちょっと考えれば納得してしまえるけど。
なんか、今回、俺、相当こたえたな…。
天使のラッパがマジ聞こえた気がしたんだ。
あの時、窓から顔を見せていたあの人を見た時。
絡まれてた俺を助けてくれた時は、心臓が飛び上がりそうに鳴った。
まさか、あの人から声をかけてくれるなんて。
もう目を離せなくなっていた。
使いっ走りでも、下僕でも、何でもよかったんだ。
もう、あの人のそばにいられれば。
でもだんだんそれだけじゃ足りなくなって、あの人のことが欲しくなってた。
欲張りすぎた。
俺のことを好きになってくれるなんて、初めから思ってやしなかったさ。
いつも、あの人の後ろには、長谷川幸也が背後霊みたいにいて、俺を睨んでた。
俺の心を見透かすように、嘲ってたんだ。
好きになってくれ、なんて望めやしないと思ってた。
だけど、ちょっときつかったなー。
俺のことなんとも思ってなくても、騙して、面白がってたなんて、それはなしにして欲しかったぜ。
天使どころかとんだ悪魔だったのに、それでも俺はやっぱあの人に、魂を奪われちまったみたいだ。
やっぱり嫌いになれない。
とんだピエロだ、俺は。
七海はぐっとアクセルを踏んだ。
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