二度と行きたくないと思っていた生徒会室だが、勝浩の仕事がまだ終わらないかと、七海は足を向けた。
だがドアの前に立ち、ノックをしても返事がない。
ドアを開けようとすると鍵がかかっている。
「あれ、帰っちゃったのか? 堺」
ポツリと口にした、その時だ。
「いやだーっ!! 助けて! 離せえ~っ!!」
返ってきたのは、思いも寄らない勝浩の叫び声だ。
しかも生徒会室の中からからである。
「堺!! おい、どうしたんだ!」
「…七海…!」
ちょうどそこへ志央と幸也が戻ってきたが、七海に気づいて志央の足が竦む。
「早く! 開けてください! 堺が!」
七海のただならぬようすに幸也が慌てて持っていた鍵でドアを開ける。
即座に飛び込んだ七海は、暗がりで窓から逃げようとした最後の男を引き摺り下ろし、吹っ飛ばすかというほどの勢いで殴り倒した。
「堺!」
倒れている男を残し、ほかの男たちは開け放たれた窓の向こうへ飛び降りると、薄暗闇の中をわらわらと逃げて行く。
慌てて七海が抱き起こすと、勝浩は顔を殴られたらしく唇の辺りに血がついている。
無残に引き裂かれたシャツ一枚の勝浩に、七海は自分のガクランを脱いで羽織らせた。
「大丈夫か?」
勝浩はそれでも気丈にコクリと頷いた。
「体育倉庫で喧嘩沙汰だとかって、妙な呼び出しだとは思ってたんだが…生徒会室でとはやってくれるじゃねーか、チクショー」
ようやく少し落ち着いた勝浩を横目に見て、幸也がそう口にする。
「まさか堺を襲ってくるとは…」
志央も愕然としている。
「とにかく」
志央は言った。
「俺がこれから堺のガードをしよう。また何をしかけてこないとも限らない」
「いや、俺がやります」
志央の言葉を遮るように、言い切ったのは七海だ。
「え……」
射抜くような眼差しを向けられ、一瞬志央はたじろいだ。
「クラスメイトだし、俺の方がずっとついてられるし」
「……そっか。…じゃあ、よろしく頼む」
まともに七海を見ることができず、志央は幸也に向き直る。
「幸也、ぼんやりしてないでその男の目を覚まさせろ」
志央に命じられ、気を失っている男を幸也が引っ張り起こした。
その間に、七海はやはりまだ小刻みに体を震わせている勝浩を優しく抱えながら、生徒会室を後にした。
ふと、志央は七海が出て行くとき、何か違和感を覚えて七海を見つめた。
「あれ、お前…目……」
左右の目の色が違う。
しかも左は電灯の光のせいだけではない、青く見える。
「ああ……落としたのか、コンタクト」
七海は右の目からもコンタクトレンズを外した。
「青いと、いろいろ言われるんで……でも度は入ってないし、もう……いいです」
別にもう、誰に何を言われてもこれ以上地にのめり込むようなことはない。
どうせ俺なんか、志央さんの視界には入ることはないんだ。
硬質な見たこともない青い瞳がじっと志央を見据えた。
この時を境に、藤原七海という男が変貌した。
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