高橋に触られた時は怖気が走るほど嫌だったのに、七海の指が少し触れるだけで志央の肌は反応し、発熱した。
「ごめん、ほんともう、とまんねーっ…」
結局のところでかい男に合体されて尚、若い情の迸りは留まることを知らず、大きな波にさらわれるように志央は高みへと連れて行かれる。
「あっ…あっ……んんっ………な…七海……七海…、好き…だからな…」
揺さぶられて志央は七海の背中にしがみつく。
声までが濡れてしまう。
「…なな…みっ!」
「かわいー…志央さん…!」
堕ちていく。
お前の瞳の青に。
七海の腕の中は温かくて。
志央は自分の全てが溶けていくような気がした。
喉が痛い。
叫び過ぎた。
一日中七海を呼んでいた気がする。
「…みっともなかったな、さっき」
掠れた声しか出ない。
七海にタクシーに押し込まれて家に連れてこられた時のことを思い出すと、志央は情けなくて仕方がない。
「大丈夫。志央さんなら、何も着てなくてもすんげーきれいだ」
パン、と志央は七海の頭をはたく。
「ってー」
「……るさい。お前、髪、伸びたな」
志央は七海の茶色の髪を引っ張る。
「タコ坊主がすっかり変貌しやがって」
「タコ坊主がよきゃ、また刈りますよ」
「今のままでいい」
結局、そのタコ坊主のいいようにされてしまったのが、志央は悔しい。
「クソ、お前、相当遊んでただろ」
「そりゃ、志央さん泣かせるくらいは」
パーン、とまた七海の頭がはたかれる。
「志央さん、乱暴ですぅ」
甘えた声で七海は志央に擦り寄ってくる。
志央は照れくさくて、つい七海にあたってしまう。
「来週、晴れたら今度こそ、江ノ島行きましょう」
七海が笑う。
暖かい笑顔だ。
「ああ、……そうだな」
離れていってほしくない。
もう絶対!
志央は心の底からそう思うのだった。
今度という今度は理事長の耳にもその知らせは入っていた。
だが、幸也の計らいで志央がどんな目にあったかは詳しく語られなかった。
後でわかったことだが、ここ一年高橋の成績は落ちるばかりだった。
高橋も意気揚揚とこの学園に入学してきたはずだ。
周囲からの期待と自らの希望とプライド。
そんな諸々のプレッシャーを抱えて高橋はいつしか壊れてしまったのだろう。
遊ぶ金欲しさに言いなりになる連中を従え、父親の地位をかさにきて桜庭を脅し、さらに弱い者たちを苛めさせることで鬱積したものを吐き出そうとした。
有名商社社長である高橋の父親は息子を自主退学させた。
中にはもう関わりあいたくないという者もあったが、被害者の家族と話し合い、慰謝料を渡し、お互いに事実の公表を避けることを望んだ。
その他数名も同じく退学となった。
どういう形にせよ、その先の人生を選択するのは彼ら自身でしかないのだ。
志央はふと、くしゃくしゃにまるめられて床に落ちていた紙に気づいた。
「何だ、この点数。ひでー、カナダに住んでたんじゃなかったか? お前」
広げてみると答案用紙だった。
七海のカバンから転げ落ちたらしい。
「わー、見ないでくださいよぉ」
手をのばす七海から志央は遠ざける。
「お前、こんな点数で、進級できると思っているのか?」
「もう、返してくださいよ、俺、グラマー、チョー苦手なんですからぁ」
またひとつ、発見。
このタコ坊主といると、やっぱ面白いかも。
そんな風に、これからも何かを発見していこう。
七海と一緒に。
明日からは六月。
夏の風はすぐそこまで、来ていた――。
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