お願いしてやってもらうような代物ではないのだ。
未だに坂口なんかまでが良太に役者をやらないかなどと言っていたが、良太ならやらせればそこそこやっただろうことは、工藤にはよくわかっている。
さらにこのぽっとでの役者の下手糞さを見せられた日には、坂口でなくとも良太がもしここにいたら、お前がやれとでも言いたくなるというものだ。
それでもど素人はど素人なりに若干気合も入ったのか、午前中のカットは何とか撮り終えた。
ディレクターの石田とは周知の仲だが、工藤より少し若い、前へ前へとチャレンジしていくタイプの男で、昼は近くの喫茶店に入り、撮影シーンについて意見をやり取りしながら石田が勝手に頼んだ大盛りカレーを工藤も食べる羽目になった。
無理にでもカレーを食べてよかったと思ったのは、夕刻に近くなるにつれて半端ない寒さに見舞われたからだ。
さすがに北海道だと、思い直すまでもなく辺りは吹雪いてきた。
そんな寒さも後押ししたのか、午後はリテイクも少なく陽が落ちる寸前に撮影は何とか終了した。
「今日はありがとうございました。大丈夫ですか? 工藤さん、なんか目が潤んでるし、風邪でしょう? 俺の移したかも」
やっと終わったかと思いつつ、しばしぼんやり突っ立っていた工藤は、目の前にハイ、と風邪用のドリンク剤を差し出されて少し面食らう。
ドリンク剤をくれたのは、今日一日、ああでもないこうでもないと工藤が怒鳴りつけたその本人で、本谷和正、今人気上昇中の有名プロダクション所属タレントだった。
イケメンだ何だと騒がれ、人気が先走りしただけで事務所にいきなり主役を張らされた、ろくでもないタレント、として工藤の中では分類されていた。
しかし、あれだけ怒鳴られてもしぶとくへこたれていないところをみると、これから育つ要素もないわけではないのかもしれない。
「すまん。もらっておく」
マネージャーに呼ばれ、本谷はぺこりと頭を下げて戻っていく。
まあ、事務所にいいように使われてつぶされないようにするんだな。
工藤は心の中で呟いた。
ちょうど、うちにきたばかりの良太が、あんなガリガリで、こんなヤツに何ができるかと思ったら、案外、しぶとく怖いもの知らずで、がむしゃらに突っ走っていた。
こんなことを懐かしがっているようじゃ、俺もやっぱ年だな……
自嘲する工藤の耳に、お疲れ様でした! とディレクターの声が届いた。
東京は朝から弱いながら太陽も顔をのぞかせ、日中は春の兆しが感じられる暖かさとなった。
「やっと春がくるか?」
相変わらず優しげな下柳の目が、良太に笑いかける。
「なんか明日からまたはっきりしない天気だって、言ってましたよ」
レッドデータアニマルズ―『自然からの警鐘』のスタッフとの顔合わせと第一回の打ち合わせのために、良太は下柳らとともにMBC本社会議室に出向いたところだ。
工藤はまだ現れていない。
札幌のロケ現場から京都に飛び、今日東京に戻る予定だが。
その時、後ろのドアが開いて、コートを脇に抱え、隙のないエリート然とした男が顔を見せた。
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