沢村が車を発車させると、佐々木は聞かずにはいられなかった。
「何でトモちゃんの絵を買おうなんて気を起こしたんや?」
「俺が買わなかったら、彼女、あんたにあの絵をくれただろう? それをあんたがオフィスに飾るとか、許せなくて」
「はあ?」
佐々木は怪訝な顔で沢村を見た。
「あんたはいつもあの絵を見てトモちゃんのことを思い出すだろ? だったら、箱根に飾って、あの絵の前であんたを抱いてやる」
呆れたのと、沢村の自分に対する執着じみた強烈な思いに、佐々木は何も言えなくなる。
「でも、彼女、わかってたみたいだぜ?」
「何を?」
「俺とあんたのこと。帰り際、あんたのことお願いしますって言われた」
「え………」
そういえば、佐々木があの絵を好きだと言ったから買うみたいなことを沢村は平然と口にしていた。
むしろちゃんと紹介すればよかったのかもしれない。
友香のことや沢村のことや絵のことや、頭の中をぐるぐるといろんな思いで一杯にしていた佐々木は、いつの間にか沢村が定宿にしているホテルの駐車場に入ったことにようやく気づいた。
「お前、羽田に行くんやろ?」
「忘れ物」
沢村はしゃあしゃあと口にする。
「ほな、ここで待ってるし」