佐々木は沢村がエスカレーターを上がるまで、ホームに立ちすくんでいたが、エスカレータで上がった沢村が一瞬振り向き、また歩き始めたのを確認すると、自分もエスカレーターに乗ってホームの反対側へと向かった。
沢村は佐々木の頑固さに頭にきていたが、佐々木に会えないなんて考えたくはなかった。
球界に入ってから女子アナと付き合ったことはあったが、常に自分にイニシアチブがあったし、向こうが会いたいなどと言ってきても、キャンプ中なんか会えるか、で終わっていた。
結局、半年ほどで別れたが、後を引くこともなかったし、思い出すことさえない。
こんなに誰かに夢中になったことはなかった。
だが確かに、これで成績を落とすようなことがあったら、佐々木のことだ、本気で別れると言いかねない。
少なくともそれだけは嫌だし、成績を落とすつもりもない。
でもな、一ヵ月会えないなんて、ほんと、冗談じゃない。
好きなんだぜ? 俺、めちゃ、あんたのこと………。
はあっと大きく溜息をついて、沢村は機に乗り込んだ。