佐々木は自分の席につくなり、ふううと大きな溜息をついてモニターの前で頬杖をついた。
キッチンに向かいながらそんな佐々木のようすを見て、直子はやっぱりこれは何かおかしいと思う。
「変なとこで佐々木ちゃん、素直じゃないんだよねぇ」
直子はしょうがないんだから、と一人呟いた。
翌日も一日、何となく覇気がないままパソコンに向かっていた佐々木は、そろそろ行こうと直子に声をかけられて、はたともう夕方になっていることに気づいた。
「あれ、もうこんな時間か」
「ギャラリー、七時まででしょ? 今、五時だから、早いとこ行かないと」
あたふたと仕事にきりをつけると、佐々木は長めのダウンコートを羽織りマフラーをグルグル巻いて、バッグを持った。
「うわ、直ちゃん、ビシバシ決めてるね、今日は」
黒のシングルブレストのコートに膝まである黒のピンヒールブーツ、小さなバッグまでD&Gだ。
ふわふわの髪を後ろでちょっととめているのが、いつもより大人っぽい。
「そう? だって、ご飯食べるんでしょ?」
「俺、こんなでいいん?」
「いいの、佐々木ちゃんはそのままで全然可愛いから」
「………可愛いってね、三十路男をからかわんといてくれ」
「ほんとのことだもん」
直子はすまして先にオフィスを出る。