直子と目が合って、何とも言えない顔で良太はもう一度腕時計を睨む。
「ねえ、今日、ほんとに来るつもりかな? 沢村っち」
直子が良太に駆け寄って小声で聞いた。
「多分。まだ八時半過ぎだろ? どんなに早くても十時ってとこだろ」
「だよね、宮崎からだもんね。今夜は飛行機普通に飛んでるみたいだし」
それからまたこそこそと直子は佐々木の隣に戻る。
「良太ちゃんの友達? これから来るん?」
佐々木は京助と良太のやりとりを聞きつけて、直子にたずねた。
「え、うん、……そうみたい」
佐々木は直子が一瞬戸惑いを見せたことに気づいたが、そう深くは考えなかった。
いくらでもそんなことをしでかしそうな男だということをすっかり忘れていた。
ややあって玄関のインターフォンが鳴った。
京助が玄関に向かい、一人の男を連れて戻ってくると、場が一時わっと沸いた。
佐々木はリビングの奥にいたし、まさかと思っていた。
「え、沢村選手? 本物?」
「沢村? ほんと?」
いきなり聞こえてきた女子の甲高い声に、佐々木は一瞬茶筅を振る手が止まる。
「直ちゃん、沢村さん、来ちゃったよ」
ちょっと驚いたようすで浩輔が直子に囁いた。
傍らでお茶を飲んでいた良太も慌てて飲み干すと、「ごちそうさまでした」とせかせかと立ち上がり、皆が騒いでいる方へ向かう。
「わ、本物の沢村やん」
「うっそやろ? 何で?」