ACT 5
青山プロダクションの裏庭で、仲間うちの花見が行われたのは、もう明日には花が散ってしまうかもという寸前の夜のことだった。
少し蔭になっていたからか、桜は開花が遅かった分、散るのも待ってくれたかのようだ。
撮影でいない小笠原と真中や軽井沢の平造を除く会社のほぼ全員と、いつもの面々、代理店プラグインの藤堂や浩輔、推理作家で工藤プロデュースの映画が評判を呼んだ小林千雪とそれにもれなくついてくる相方の綾小路京助、山内ひとみに下柳、そして沢村だ。
水野あきらにも声をかけると、喜んでやってきて、ひとみや下柳と早速大騒ぎだ。
声を掛けろと言っていた小田はあいにく仕事で来られなかったが、事務所の安井や遠野がやってきたし、ねん挫で済んだと微笑む市川をエスコートして有吉も現れ、ドラマの打ち合わせの時、良太がチラッと口にしたのを聞き逃さず、坂口が宇都宮連れでやってきた。
小さな裏庭に、大御所俳優から人気ミュージシャン、プロ野球選手まで、ちょっと豪華な顔ぶれだ。
「工藤ファミリー勢ぞろいだな、こりゃ」
「どっかのマフィアみたいなことを言わないでください」
工藤が坂口の揶揄に突っかかっていた。
そういう工藤も去年の花見の時は目に見えていやいやだった気がするが、今年は心なしか穏やかな顔をしていると良太は思う。
気のせいかな……
去年と同じく、妻の小野万里子を伴ってやってきた嘱託カメラマンの井上がライトアップして、花びらが散りゆくさままでもが演出されているかのようにただ美しかった。
しかし良太がさっきから気にしているのは、重要人物がまだ来ていなかったからだ。
こっそり表情を見る限り、沢村の表情は精彩を欠いていた。
「開幕戦、お前の特大ホームランで勝ったじゃん。何黄昏てんだよ」
良太は気を利かせて、沢村のグラスに好きな焼酎を注ぐ。
「クッソ、今夜は飲んでやる!」
良太は一つため息をつく。
「管巻くのは帰ってからにしてくれ」
「それが親友の台詞かよ?」
都合のいい時は親友扱いかよ、と文句を言う良太の前で、あっという間にグラスを空にする。
有吉や市川を巻き込んだ事件は解決したし、とりあえずドラマの船出に関しては準備が整いつつある。
後で何が起こるかはわからないが。
あとは………
良太がもう一つため息を吐こうとしたその時。
「こんばんは」
振り返るとアシスタントの直子を伴った佐々木が立っていた。
良太は思わず佐々木に駆け寄った。
「よかった、来てくれたんですね、さ、どうぞどうぞ」
二人を裏庭の中心へと促しながら、良太は言った。
「何か俺、今、天岩戸が開いて、天照大御神が降臨したくらい佐々木さんが神々しく見えました」
途端表情を曇らせる佐々木の横で、直子が笑い出した。
「え、何? そんなツボった? 直ちゃん」
「だってぇ、やっぱ、佐々木ちゃんて、アマテラスオオミカミ~」
まだ笑いが止まらない直子に良太が戸惑っているうちに、沢村がやってきて佐々木にグラスを渡す。
それを受け取った佐々木を見て、良太はちょっと胸を撫で下ろした。
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