竹野紗英は最近急速に伸びていると評判の人気女優ではあるが、業界では超わがままでスタッフ泣かせという評判の方が先に立っている。
元来人気女優やアイドルといえば、どちらかというと周りがちやほやしつくして、おだてて女王様に仕立て上げるので、それが自分の事務所の人間だけでなく、スタッフや監督、プロデューサーにまで注文をつけるといったどこか勘違いした暴挙にでてしまうことが少なくない。
可愛かったり美人だったりして人気もあれば、周囲も仕方ないかと、とにかくおだてて仕事をしてもらわなくてはという方向へ動いてしまう。
そこへ実力が加わって本物になればもう誰も文句は言えなくなる。
そうするとさらに周りは扱いにくくなるのだ。
青山プロダクション所属の中川アスカもそのうちの一人といえるわけだが、竹野はアスカに輪をかけて扱いにくいという評判だった。
デビューが十三歳というから二十二歳と言っても既に芸歴十年目、彼女と仕事をしたプロデューサーやディレクターですらスポンサーを通してクビを切られた者もいるというが、彼女の怒りをかったためというのがもっぱらの噂だ。
その竹野が出演依頼を受けてくれたと、鼻歌交じりに坂口から電話があったのは昨日のことだ。
例によって、あとはよろしく、だ。
竹野に関する色々なデータをかき集めて、良太は取り掛かる前からため息をついた。
「軽く言ってくれるよな~、坂口さんも。せっかく山之辺芽久のことが片付いたと思ったのに」
以前工藤と噂になったことのあるモデル出身の山之辺は、スポンサー絡みでドラマに出演していたのだが、工藤にまだ未練があり、お陰で無事ドラマがクランクアップするまで良太は閉口したのだ。
どうやら竹野の事務所側とスポンサー側は内内で話はついているようだが、とりあえず正式に出演交渉をしなくてはならない。
事務所にアポを取り、書類を作り、そんなことを何回か繰り返していると、すぐ時間が過ぎていく。
「いけね、ドラゴンの事務所、二時だった!」
書類を入れたバッグを掴み、コートを取ってあたふたと良太が出かけようとした矢先、ポケットで携帯がなった。
「誰だよ、急ぐ時に……」
エレベーターを待ちながら携帯を取り出した良太は画面を見て、あいつ、と眉を顰めた。
「何だよ、今急いでんだから……」
「近々佐々木さんと会う予定あるか?」
沢村の第一声で、良太は予感が当たったのを知った。
「まあ、明後日、CFの立ち合いが…」
「だったら頼む! 俺に電話くれるように言ってくれ」
「お前また何したんだよ」
「詳しいことは後で話す」
それだけ言ってブチッと切れた。
「やっぱり佐々木さん絡みか」
ブツブツ呟きながら、駐車場に降りると、良太はジャガーに乗り込んだ。
「白金だっけ」
良太はナビをセットすると、ハンドルを切ってアクセルを踏む。
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