空は遠く169

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   ACT   18
 
 
 バレンタインデーも間近になった平日の夕方、「ワンちゃん猫ちゃんとご一緒に カフェ・リリィ」では、少々強面だが、コーヒーを淹れさせたら、どんなバリスタも真っ青と称する練が、今日も店を取り仕切っている。
「どんなすげぇ味のコーヒーなんだよ」
 常連とはいえ、どちらかというとしょっちゅう店の一等席である奥のソファを陣取っているだけというクソ生意気な男子高校生が、持ち歩いているタブレットに何やら打ち込んでいる。
「すげぇ美味いに決まってるだろ」
 入ってすぐのショーケースには人間用のチョコレートケーキの隣にはワンちゃん用のバレンタインデーケーキやらクッキーやらが、なかなか可愛らしく並んでいる。
「坂本ちゃん、何? 勉強?」
 美味しく淹れたコーヒーを練がテーブルに置いた。
「いや、ちょっとね、調べ物」
 キーボードを打つ間にもテーブルに置いた坂本の携帯にメールが入る。
「え、何? 渡辺美月って、坂本っちゃんも好きだった?」
 坂本が打ち込んだ名前を見て練が尋ねる。
「も、ってことは練さん、ターゲット圏内とか? 俺、名前と顔がイマイチ一致しなくて」
「いやあ、美人で明るくてさ、着物なんかだったら、何つうか小股の切れ上がった粋でいい女って感じ? よっ、姉御、みたいな。ところが、ドレスなんか着せたら小顔でプロポーションいいしな」
「へえ、そうだっけ」
「CMとかよく出てるぜ」

 


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