そんなお前が好きだった15

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「まあた、ボールかなんか飛び込んだんすか? ここほんと、昔っからよく飛び込みますよね~」
 作業員は言いながらひょうひょうとブルーシートを外し、抱えてきたサッシから保護材を取り除いて窓にはめ込んだ。
「俺は本気で言ってんだぞ!」
 窓の方を見ていた響は、怒鳴る寛斗に向き直った。
「好きもクソもあるか! たかだか週一回の授業で顔を合わせるくらいで」
「週一回上等じゃん! 大体、田吾作のようすちょこちょこ見に行ってるじゃん、俺!」
 猫の様子を時々見に来てくれるほど、猫の保護に熱心なのだと、感心していたのに。
「にゃー助だ! そんな魂胆でにゃー助の様子見にきてたのか!」
 硝子屋がいるにもかかわらず段々響の声も大きくなる。
「あったりまえだろ? 下心なしに、そうそう里親んとこなんか行くかよっ!」
「下心だと? 高校生のくせにナマイキに!」
「ナマイキもクソもあるか! キョーちゃんが好きだから付き合ってくれっつってんだよっ!」
「やめろ! 時空がゆがむ!」
「誰がタイムトラベラーだよ! 年なんか関係ねーし!」
 響はため息をついた。
 とんだ藪蛇だ。
 予想外の展開に、響が眉を顰めていると、作業を終えた尾上硝子店が、「やっぱ、お前、和田響?」と親し気に声をかけてきた。
「え………やっぱ、ひょっとして、クラスメイトか?」
 響もどこかで見たような気がしていたのだ。
「ったく、覚えてろって! 尾上栄太。二年と三年同クラだったろうがよ」
「だよな? 確か、美大行った?」
 ようやく響は思い出した。
 文系クラスで、尾上は美大、響は音大志望で、一般的な大学に進学希望のみんなからは二人とも浮いていた。
「そうそう。工芸。今、うち帰ってオヤジの店手伝いながら、ガラス細工やってんだよ。何、お前、海外じゃなかったっけ?」
 ただし、大抵難しい顔をしていた響と違って、いつも楽し気に何かを考えているやつだった。
 やはり狭い街だ。
「去年の秋に戻ってきて、急遽講師やらされてる」
「そっかあ、変わってねぇし、お前らしいよなあ、男子高校生に告られてんの」
「なんでらしいんだよ」
「いやあ、なんか、流行りだし、いんじゃね?」
 取り換えた窓枠や保護材をまとめたゴミ袋をひょいと抱えると尾上は笑った。
「今度、飲み、いこうぜ~」
 教室を出がけに手を振って尾上は帰っていった。
 流行り? なのか?
「窓も取り換えてもらったし、帰るぞ」
 響は手にしていたスコアを持って、寛斗を振り返った。
「キョーちゃん、返事はあ?」
 ぐずぐず言いながら、寛斗は響の後に続く。
「しつこい」
「答えになってない」
 響はふう、と大きく息をつくと、寛斗を振り仰いだ。
「答えはNOだ。俺は青春を謳歌し損ねたっつったろ? 告り損ねた初恋がここにずっとあるんだよ、悪いけど」
 響は胸のあたりに手を置いて言った。
 口にしてみると、清々しいほど、自分の思いの深さを改めて知ることになった。
 井原が好きだった。
 ほんと、できるもんならタイムマシンであの日に帰りたい。
「十年ものの初恋なんか、もう腐ってるって」
「うっさいよ!」
 寛斗に言われなくても、確かに十年も経って初恋とかよく言うよな、俺。

 


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