そんなお前が好きだった18

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 まるであの日の続きのように、「あ、響さん、いい天気でよかったですね」などと言いながら、新任式が終わった講堂で、井原が声をかけてきたのだ。
 一体全体何がどうなっているんだ?
「やだな、響さん」
 元気が声をあげて笑った。
「この春から、井原、物理の教師になったんですよ。副担も持たされるとかって」
「へ?!」
 元気の説明に、響は思わず立ち上がった。
「大丈夫ですか?」
 心配されて、響はまた椅子に座り直した。
 そんな現実は全く想定外だ。
 なんで………
 起こりえない偶然が起こるんだ。
 いや、尾上だって戻ってきてガラス屋継いでいたりするわけで、起こり得ないということもないのか。
「しかし……こないだ、井原はイエール大にいるって……」
 元気に文句を言ったところで何も変わらないことはわかっていた。
「俺もつい二日ほど前、聞いたんですよ、本人に。この店に急に現れて」
 休みのうちにと響はあちこちにホイホイ出かけていたので、この店に来るのも少しばかり間があいた。
 その間に井原はこっちに戻ってきたというわけか。
 いや、教員ということならもうかなり前から決まっていたはずだ。
「親もいるからとか言ってましたけど。プラネタリウムの館長とは古い付き合いでずっと連絡とってたみたいなんですよね」
 確か井原は二人姉弟で、父親は計理士とか固い仕事だったと聞いたことがある。
 だが響の家とは違って家族みんな仲がいい、と言っていた。
 そういう家庭に育つとあんな陽気な少年が育つんだな。
 プラネタリウムか。
 昔、急に連れていかれたことがあった。
 星々のことを語る井原は夢見る天文少年そのものだった。
 だがもうそれははるか昔の話だ。
 響の知っている星が好きで音楽が好きで陽気な少年は、さっき目の前に現れた天文学者の井原先生ではないのだ。
「週末、ここで、井原の歓迎会やるんですよ。響さんももちろん来ますよね?」
「え?………いや、俺はほら、お前らとは学年が違うし」
 さらなる動揺を見抜かれまいと、響は密かに息を整える。
「やだな、そんな堅苦しいんじゃないから。音楽部で仲良かったでしょ? 関係ないけど二こ上の松田さんとか、遠藤さんとかもちょうどこっちに戻ってくるから顔出すって言ってたし、『あさくら』の若旦那と『丸一』の秀喜とまたセッションやるんですよ」
 去年のクリスマスには元気はこの店でライブパーティをやったのだが、ちょうどその頃、響はインフルエンザにかかり、熱がでてベッドで唸っていたのだ。
「そういえば、クリスマスライブ、すごかったんだって? 聴きたかったけど、インフルなんかかかっちまって」
 今更のように響は言い訳した。
「また今年もやりますから。とりあえず土曜、井原もキーボード持って来るっていうし、響さんも一緒にやりましょうよ」
「え…………」
 あの頃、三年生だというのに、文化祭で音楽部のジャズセッションに、井原が響をステージにあがらせるものだから、キーボードを弾くはめになってしまった。
 当時生徒会長をしていた井原は器用な男で、ピアノやキーボードもやるし、ジャズなど歌わせればなかなかどうして堂に入っていて、その時の井原と響のジャズセッションは大いに観客をわかせ、ついでに目の前にいる元気がギターで参加なんかしたもんだから、しばらく響までが有名人になってしまった。
 そんなこともあったよな。

 


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