そんなお前が好きだった67

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 ふと手にしていた携帯に気づいた響は、誰かの言葉が聞きたくなった。
 酔っているのでためらいもなく、一つの番号を押した。
 五回目のコールで、声が聞こえた。
「響さん? どうしたんですか? こんな時間に」
「なんかさ……深淵の底から俺が呼ばれてるみたいな気がしてさ………」
「響さん! 今、どこ?」
 途端、相手の声が大きくなる。
「え、どこって……うち……」
「ちょっと今から行きますから!」
 そういうと電話は切れてしまった。
「え……うち、くるって、何で???」
 五分ほど経ってから、チャイムが鳴った。
「え、はーい」
 響はふらついてテーブルや壁に手をつきながら、ペットゲートを開けた。
 すぐ後ろににゃー助がいるのに気づいて、抱き上げて玄関の鍵を開ける。
 にゃー助を脱走させないようにという意識だけは頭にあった。
 ドアを開けると、そこに息を切らせた元気が立っていた。
「元気い、元気そうで何より!」
 へらへらと笑う響を怪訝そうに見た元気はドアを閉めて、にゃー助を抱いて戻っていく響のあとからついて中に入った。
 鍵を閉め、ペットゲートも閉めると、元気はグランドピアノが二台交互に並ぶ横を通り、奥のソファに座っている響を見下ろした。
 するりとにゃー助は響の腕から降りて、爪とぎまで行くとバリバリとやり始めた。
「あ、元気も飲む? クラウスに餞別にもらった酒、なかなかいけるよ」
 響はよたよたと寝室に向かい、酒を持って戻ってきた。
「そんなに酒、強くないでしょ? どんだけ飲んだんです?」
 元気は渡されたボトルを見て、「ヘネシー、シシャール? げ……」と元気は呟いた。
 のたのたと響がキッチンの棚からマグカップを一つ持って来て元気に差し出した。
「ヘネシー、リシャールをマグカップで。ま、いいけどね」
 元気はボトルの蓋をあけて響が差し出しているマグカップに半分ほど注ぎ、自分のマグカップにも同じように注いだ。
「Prost!」
 元気の隣に腰を降ろした響はへらへら笑いながらカップを元気のカップにぶつけた。
「深淵が呼んでるとか言うから、びっくりして来てみれば、何かえらくご機嫌ですね」
 クラウスと言うのが、先日井原が言っていた金髪の色男のことだろうとは、元気も察しがついた。
 ただ何で自分を呼んだのかと、元気はふと疑問がわく。
 クラウスの酒を飲んでご機嫌というのなら、もしやそのクラウスとやらとうまくいった、とか?
 だから井原は呼べない、とか?
 ん? でも、餞別の酒とか今さっき言ってなかったか?
 頭の中に次々と疑問が沸いてくるものの、元気は酒を一口含む。
「ん、美味い、かも」
 と元気が呟いている間に、目の前の響がそれじゃ味わうこともできないだろうというようすでゴクゴクと酒を飲み干した。
「何かご機嫌になるようなことがあったんですか? 井原も呼んでやったらあいつ飛んで来るのに」
 元気の発言の井原、に響は反応して、しばしうつろな視線を宙にはわせた。
「井原……」
「もう寝てたとか?」
「井原に昨日告られてさ」
 カップの酒をまた一口飲みこもうとした元気は、いきなりの聞き捨てならない言葉にむせ返った。
「………それで?!」
 元気は響を覗き込む。
「さっき断った」
「断ったあ?! なんで?!」
 さらに衝撃的な発言をさらりと口にする響を元気は凝視した。
 井原が響を好きなことはもう十年も前から知っていた。
 それに二人をみていれば明らかに響も井原を好きなはず、だったのだ。
「今日の放課後、荒川先生がきて、井原先生に近づくなって言われて」
「はあ???」
 そんなことを言いながらも、響はへらへらと笑っている。

 


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