「いい絵じゃないか」
浩輔の前には氷が入ったウイスキー、河崎の前にはストレートが置かれた。
「お前がそっちの才能を持っていたなんて、知らなかったな」
「あれは、佐々木さんのプランに従ったまでで、俺なんか…」
煙草に火をつけると、河崎は半分浩輔に体を向け、カウンターに片腕をのせて浩輔の顔を覗き込んだ。
「まあ、俺についているよりはマシってやつか?」
「…ちが……!!」
顔を上げると、河崎の目が間近にあった。
残酷な科白だ。
河崎がいなければ今の自分はないはずだ。
ましてや河崎と離れたかったわけではないのに。
苦しくて、泣きたくなる。
「佐々木はいろいろと可愛がってくれるわけか?」
河崎は浩輔の肩に腕を伸ばし、その項をゆっくり指でさする。
既にかなり酒が入っているらしい。
硬直していた浩輔の身体は加熱し、心臓はドクドク波打っている。
「…佐々木さんは…親切にしてくれます…いろいろ教えてもらって…」
「へえ、手取り足取り…ベッドの中でも?」
剣のある言い方で含みのある揶揄を受け、浩輔は耳までカアッと赤くなる。
「……そんな…!!」
「どんなやり方で教えてくれるって?」
唇は笑みを湛えているのに、その目はきつい光を放つ。
相変わらず河崎の指は浩輔の首筋から離れない。
背筋をゾクリとしたものが駆け登る。
浩輔は身動きが取れぬまま俯く。
「俺とは違ってやつは優しい…か?」
また浩輔の耳元で河崎の唇が動く。
空気の震えまでもが伝わってくる。
「…あなたに、関係ないです…!」
自分をからかっているのだ、離して欲しい、と思う傍ら、それでも河崎に惑わされ、その腕に引き込まれてしまいそうな自分を抑えつけ、スツールを降りる。
「浩輔にもうかまうなと言ったはずやで!」
佐々木だった。
いつのまに来ていたのか、氷のような眼差しで河崎を睨みつけている。
「佐々木さん…あの…」
対峙する二人の間に立っていた浩輔は、佐々木に引き寄せられた。
ふん、とせせら笑い、河崎はスツールを降りる。
「キョウヤ、河岸を変えて飲み直しだ!」
不機嫌そうな声で怒鳴ると、河崎は浩輔の方をもう見向きもせずに店を出て行った。
「何だってんだよ、一体」
キョウヤは三人を怪訝な顔で見ていたが、女に腕を取られたまま、河崎の後に続く。
「こっちこそ飲み直しや」
佐々木が連れていってくれた串揚げ屋で、次から次へと目の前の皿に出されるまま、浩輔はビールと一緒に次から次へと平らげ、むやみやたらとくだらないことで笑った。
二人が店を出たのは、もうとっくに電車が終っている時間だった。
「ご馳走様でした」
大通りから狭い路地に少し入ったところにあるその店は、知る人ぞ知る、東京でも十指に入る評判の店だと佐々木は自慢げに話す。
「お前だけに教えたんやからな」
「ハイハイ、ありがとうございます」
浩輔は笑った。
人通りの少ないその道を、長い髪の女とのカップルがいちゃつきながら二人を追い抜いていく。
一瞬、リサと河崎にだぶって見えたと思うと、首筋を這う河崎の指の感触が蘇り、浩輔は身体が震えた。
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