「何ゆうて、ブーたれてるコースケちゃんの可愛さには負けるわ」
佐々木が笑う。
「またそーやって人をからかう」
「イリュミネ、遅れるって?」
「昨日の電話では、五時頃ってことでしたけど、時間押すかもって言ってたし」
そんなやり取りをしているうちに、英報堂の眼鏡のエリートは打ち合わせを終えたらしく、テレビ局の人間が帰ると、自分ももさっさと席を立った。
店を出る時、浩輔の方を一瞥したような気がしたが、まあ気のせいだろう。
ちょうど二人がケーキを食べ、お茶を飲み終えて一息ついた頃、マネージャーを従えてイリュミネのメンバーがどやどやと入ってきた。
「春から、夜中の番組、俺らやることになってさ」
元々陽気なメンバーは、一様に喜んでいる。
「うわ… 何か、イリュミネ、大ブレイクの予感?」
浩輔も嬉しくて笑顔を向ける。
確かに、音楽番組への出演などで露出度が増え、ファンも急増した。
景気低迷でつい下を向きがちなこの時代だからこそ、割と幅広い世代に受け入れられている音楽だけでなく、このメンバーのルックスに加え、彼らの持つポジティブな雰囲気に期待を寄せる向きもあるのだ。
そそくさと打ち合わせを終え、マネージャーにせかされてメンバーが帰ると、佐々木と浩輔も席を立つ。
「あいつら、何かいいですよね。見てると元気になれるっつーか」
「フン、ノーテンキってやつやろ。昔っから」
「え、佐々木さん、つき合い古い?」
「キョーヤって、近所のハナタレガキでな」
マフラーを巻きながら、佐々木は笑った。
「そーなんだ」
「コースケちゃん、今日はこの後、急ぎの、何もないんやろ? 飲みいこか?」
「え、でも佐々木さん、明け方まで飲んでたんでしょ?」
「そんなん、歩いとったら、消えてもた」
浩輔がレジで会計を済ませる佐々木を待っているうち、ドアが開いて数人の男が入ってきた。
「あれ、ひょっとして西口さん?」
まさか英報堂の社員かと、浩輔はぎょっとして身構えた。
「やっぱりそうだ、英報堂の西口さんでしょ? 河崎さんとこの。野間口です。以前、ドラマの件でお世話になった」
浩輔はおぼろげに男の顔を思い出した。
「あ………その節は……、どうもお世話になりました」
確か大手化粧品会社をスポンサーに、英報堂も制作に関わったMBCのドラマのプロデューサーである。
もちろん河崎の仕事で、浩輔はその頃、毎日朝から夜中まで駆けずり回っていた。
「あの、実はもう英報堂やめて、別のとこにいるので」
「ああ、なるほど。今はどちらに?」
野間口は確か四十歳手前、割と人当たりがよく、あちこちで怒鳴られまくっていた浩輔にも穏やかに接してくれた記憶がある。
「ジャスト・エージェンシーという……」
「というと、あの、天才クリエイター佐々木周平のいる?」
え、と浩輔が佐々木を振り返ると、佐々木本人がやってきた。
「呼びました?」
「お……佐々木さんですか? はじめまして、私、こういうもので、お噂はかねがね……」
早速名刺交換、ちょっと座りませんかということになったのだが、案の定佐々木の美貌にあてられたか、少し顔を赤らめながらも野間口は担当直入に切り出した。
「実は、急遽、春から夜十一時台なんですが、イリュミネの番組、やることになりまして。前の番組、大コケしましてね。私に何とかしろって、上からのお達しで」
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