少し太りじしの体躯を細めの椅子に詰め込んだその顔には、中間管理職の悲哀が浮かんで見えるようだった。
「そういえば、さっき、イリュミネのみんなが言ってましたよ」
「そう、C社のCM、おたくがやってんですよね? それで西口さん、この際、タイムCMどうです?」
「え、それは面白いかも!」
今まではお笑いとアイドル未満の女の子を使っただらだらした番組だったのだが、時間帯を考えても最近の視聴率は下がりっぱなし、この際、十一時台は大きく編成しなおし、全く違ったものを創るというので野間口に命が下ったという。
野間口が目をつけたのが、人気急上昇中のイリュミネだ。
「三十分で、今考えてるのが、サスペンス仕立てのショートドラマなんですけどね。できればちょっとメジャーな若手女優も使いたいと」
スポットと違い、番組提供としてのタイムCMは、ほぼ大手代理店が主たる番組枠を握っているので、弱小の代理店が参入するのはなかなか難しい。
十一時台という時間帯だが、イリュミネの番組ということであれば、ジャスト・エージェンシーだけでなくC社にとっても悪い話ではないだろう。
「では、野間口さんのご都合に合わせて、うちの営業を早速伺わせますので」
「え、西口さん、じゃないの?」
野間口は意外そうな顔を向けた。
「あ、実は今、佐々木さんの下でデザイナーやってるんです」
「そりゃすごい、いつから?」
人のよさそうな笑顔につられて、浩輔は、一年になると言った。
「英報堂の営業マンなんて、ちょっと手に余っちゃって。結局、二年で逃げ出しちゃいました」
自虐的に付け加えて、浩輔は苦笑いした。
「いやいや、あのきっつい河崎さんの下で二年もやられたら大したもんです。聞くところによると、長くて一年、下手すると数ヵ月で根を上げるのが関の山だって、ありゃりゃ、これは失礼、余計なこと。じゃ、西口さん、佐々木さん、よろしくお願いします」
野間口が待たせているスタッフのところへせかせかと戻っていくと、二人は店を出て新橋の駅に向かって歩き始めた。
「土橋さん、早速、野間口さんにアポとってみるって」
「土橋さん、喜んでたやろ?」
浩輔が携帯で土橋を捕まえて、番組CMの話をすると土橋はかなり興奮していた気がする。
「まあ、そんな感じ」
「うーん」
佐々木が急に立ち止まって浩輔を見る。
「佐々木さん? どしたんですか?」
「いやあ、コースケちゃんってすごい思て」
「はあ?」
浩輔はぽかんと佐々木を見上げた。
「打ち合わせ行った先で、ちゃっちゃかでかい仕事取るやなんて」
「え、何ゆってんですか、まだ決まったわけじゃないし、これから詰めていかないと……」
「いや、この仕事、きっとたったか決まるで。局の人間をあんな好意的にさせるんやから、やっぱ、コースケちゃんすごいわ」
「ええ? 昔ちょっと、仕事で知ってたけど、憶えていてくれてラッキーってだけでしょ。それに佐々木さん、何にも言わないし、俺、勝手に話に乗っちゃってよかったのかなって」
妙に感心している佐々木に、浩輔は逆に恐縮する。
「悪いはずないやろ。うん、そうやな、コースケちゃんがあの河崎の一番弟子ってのはホンモノやってんな」
途端、浩輔の表情が曇る。
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