それはこっちの科白だ。
そんな話を聞きたくなくて、天国から現実に逆戻りしたような思いに、浩輔はたったか歩きだした。
河崎達也。
その名をまさかこんなところで聞くなんて。
「あ、コースケちゃん、それでねえ、今夜のパーティにぜひおいでって。モデルやタレントなんかも来るみたい。行こうよお、みんなで! カッコいい人いっぱいいそう!」
直子のうきうきした声が背中から聞こえた。
「待ってよ、コースケちゃん! どうかした?」
浩輔が振り向かないので、直子は前に来て顔を覗き込んだ。
「ナオちゃん、バンドやってる人と付き合うんじゃなかったの?」
「ああ、いいの! しばらくアイツのことは置いとくの」
浩輔は妙に断言する直子を見つめた。
そういえば、付き合ってと言われて迷っていると言っていたが。
とにかく冗談じゃあない。
今更あの人たちと、どんな顔して会えって?
浩輔は東京に飛んで帰りたくなった。
その時、カフェテリアから出て階段を降りてくる三人連れのシルエットがあった。
彼らが近づくにつれ、浩輔の心臓は激しく警鐘を鳴らし始める。
「へえ? ナオちゃんの彼氏って、コースケクンだったんだ? 世の中狭いねぇ。久しぶり、西口浩輔クン。何かカワイくなったね?」
皮肉混じりのその声に浩輔は身を固くした。
どうして藤堂義行までいるんだよ!
「えーっ!!? 何で、藤堂さん、コースケちゃんのこと、知ってるのぉ?」
直子が驚いて声を上げた。
「ウチの営業にいたのよ、コースケクン。二年も可愛がってあげたのに、すっかり音沙汰なしなんだもん」
浩輔が隠していた前歴を、さやかがさらりとばらしてしまった。
「えーっ!! うっそぉ!」
「って、英報堂に、コースケちゃんいたの?」
女の子だけでなく大沢や土橋も驚きの声を上げる。
「あら、内緒にしてたの? コースケくん」
さやかが声高に笑った。
その声はいやでも浩輔にとっては黒歴史どころか暗黒だった英報堂時代を思い起こさせ、浩輔はすぐにでもその場を去りたかった。
彼女の後ろで鋭い視線を向けている男の顔を見る勇気はないが、気配だけでも男の威圧感は充分に感じている。
「パーティ、みんなで行ってくれば? 俺、スンゲー疲れたし、パス」
そのまま彼らの横を通り過ぎようとした浩輔は、藤堂に腕を取られた。
「つれないこと言わないの。みんな、コースケちゃんと行きたいって言ってんのに」
「離して……下さい!」
人を茶化した言いぐさに、浩輔は藤堂を睨みつける。
「離せよ、嫌がってるやろ」
何かただならない気配を察した佐々木が藤堂の腕から浩輔を引き剥がした。
「まあまあ、同業者同志、仲良くしようや、コースケちゃん」
それまで一言も発していなかった男が口を開き、ニヤリと笑う。
河崎の声を聞いた途端、ドクドクと、浩輔の血液が逆流し始めた。
顔を上げた浩輔の目に、鋭い眼光が飛び込んでくる。
漆黒の髪、アメリカ人の母の血が色濃く出た彫りの深い面差し、唇の端を上げて笑う、ちょっと人をくった不適な表情。
大柄なせいで余計に他を圧倒する。
その男こそかつて浩輔の全てをがんじがらめにしていた河崎達也だった。
浩輔は河崎の視線を躱し、心の中で叫ぶ。
何で、今頃俺の前に現われるんだよ!!
せっかく、せっかく忘れられたと思ったのに!
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