十二月に入ると街は色とりどりのイルミネーションに彩られ、世の中は何となくそわそわと、道行く人々の足取りも軽くなる。
「ワンちゃん猫ちゃんとご一緒に カフェ・リリィ」でも、店内の奥にはツリーが飾られていた。
今年はゴールドやシルバーなどを基調にしたシックな雰囲気に仕上がっている。
「こんにちは」
ツリーの傍らにクッションをもらって寝そべっているタローは、ドアが開いたのに気づいて顔を上げると、のっそりと立ち上がった。
「お、成瀬くん、いいとこにきたね、今年のクリスマス限定スイーツ、試食する?」
カウンターの中からマスターの練が強面ながらにっこりとほほ笑んだ。
「え、はい、ほんと、タイミングいいですね。クリスマスのケーキ、予約しようと思ってきたんですけど」
佑人は尻尾を振って佑人を見上げているタローの首筋を撫でながら、マフラーを取った。
タローの首輪は頑丈な革製だがなかなか年季が入っている。
「まあ、そこ、座って。今ちょうど、客、切れたとこだから」
カウンターから出てきた練が掲げたトレーには、チョコレートケーキとジェラートにイチゴのスライスが添えられ、フルーツソースがかかった見た目も可愛いデザートが乗っていた。
「ま、女の子は絶対喜ぶだろうことはわかってるんだ、試食したのは百合江さんだけどね。彼氏の口に合うかどうかってとこを教えてもらえると」
「でも俺、ケーキとか好きだから、むしろ苦手な人に試食してもらった方が」
ソファに促され、ダッフルコートを脱いで座りながら、佑人は言った。
「ダメダメ、一応、力に食わせてみたんだが、ぱくっと一口で食って呑み込んで、味も何もあったもんじゃあない」
佑人は少し苦笑いして、スプーンを取った。
力と、その名前を聞く時、最近では割と穏やかでいられるようになったものの、時たまとんでもないことをしでかしてくれるので、佑人の心臓は驚かされることが多い。
山本力とつき合うことになったのは夏前のことになるが、そのことで佑人の世界は一変した。
目に見える世界というわけではなく、佑人の中のことではあるが。
中学の時、ある事件をきっかけにイジメにあって以来、どちらかというとひきこもりがちだった佑人が、学校と家との往復以外の場所に行き、また人と言葉を交わすようになった。
それは力だけでなく二年生からの仲間である坂本や東山や啓太、それにこの練のお蔭ともいえるのだが。
力と本気でいがみ合いをしていた去年の今頃と違って、練に言わせると「ちょっとした言い争い」程度には変わってきたらしい。
そういえば、と賑やかすぎないイリュミネーションに飾られたツリーを見つめていた佑人は一年ほど前のことを思い出していた。
ちょうど今頃だっけ、タローや百合江さんに出会ったのは。
散歩の途中で暴走したタローのお蔭で足を捻挫した百合江を、佑人がタローを従えながらこの店まで肩を貸して連れてきたのだった。
練は、最初目一杯の強面に鋭い視線を佑人に向けていたのだが、この店のおオーナーである百合江を助けてくれた上に、店にきた外国人客の応対に困っていたところを、流暢な英語で代わりに説明してくれた佑人にひどく感激した。
以来、練はすっかり佑人フリークなのである。
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