好きだから116

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「安心しろ。特番、ホームラン五〇本打ちますとか言っとくさ」
「ったく、有言実行だからな!」
 豪語する沢村に念を押してから、良太が何気なく八木沼を見ると、ほけっと座ったまま視線は宙をさまよっている。
「しっかし、いいのかよっつうくらいあけっぴろげっつうか、八木沼選手って」
 大らかで人好きのするキャラなのだ。
「フン、俺もあのくらい軽けりゃ状況はまだ違ってたかもな」
 自嘲する沢村を見て、確かに対照的なキャラではあるがと良太は眉を顰める。
「今、佐々木さん、仕事でちょっときついらしいんだ」
「え?」
 沢村は良太を凝視した。
「うちの忘年会にも出席予定だったんだけど、クライアントが面倒なこと言ってきたらしくて、藤堂さんと制作会社に詰めてて、お前らが帰った後に二人できてくれたんだが」
「………その面倒な仕事、終わったのか?」
「ちょっと息抜きに来てくれただけで、間に合うか合わないかってとこらしい。ほんとは佐々木さんただでさえ仕事タイトなのにイレギュラーなスケジュールになって、数日で京都と北海道ロケとかめちゃな強行軍で」
 沢村は思わず息をのんだ。
「………大丈夫なのか? 佐々木さん」
「直ちゃんも心配してるけどな。佐々木さん、やると言ったらやるって人だから」
「………まあ、俺にはどうしてやることもできないし……」
 むしろ佐々木さんの癇に障るくらいが関の山だ。
 沢村はそんな自分への苛立たしさを振り切るように走り出した。
 声、笑い、仕草、髪の色、肌の熱、もうずっとあの人の何もかもが頭の中にいっぱいなんだ。
 あの人は俺の手を振り払って、もう触れることすら許してくれない。
 俺には、何もできることなんかない。
 何か俺、どこもかしこもバッキバキだ。
 くそっ!
「あっ、待てや、俺も!」
 八木沼は慌てて沢村のあとを追った。
「沢村………」
 この自主トレは、八木沼の方から一緒にやりたいと申し出たという。
 確かに沢村の方から誰かに声をかけるとかないとは思ったが、それでも沢村の性格なら嫌ならOKなどしないだろう。
 散々こきおろされながらも沢村について行こうとする八木沼の天然な性格は沢村にとっても吉と出るのではないかと思ったのだが。
 屋内練習場を出た途端、吹き付ける冷たい風に良太は首を竦めた。
「にしても、佐々木さん、多難?」
 あちこちで言い寄られるとか、美貌の主も困ったもんだな。
 あの千雪さん流のプロテクト、わからないでもないわ。
 稀有な美貌がゆえに騒がれ過ぎて、あり得ないコスプレに走った推理作家をあらためて気の毒に思う。
 また冬がやってきている。
 佐々木さんや沢村と一緒にスキー合宿って、楽しかったのにな。
 あんな時間がまた戻ればいいのと思いながら、良太は車のエンジンをかけた。

 


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