好きだから22

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   ACT 5
 
  
 

 しゅんしゅんと釜の湯だけが静まり返った部屋の中で音をたてている。
 名のある僧侶の作と云われる、月清千古秋、の文字の掛け軸が掛かる床の間には、その斜め前に唐物の篭に杜鵑や秋明菊などの茶花が生けられ、炉で焚かれている香が芳しい。
 久々夜の時間が空いた佐々木は、茶道師範である母淑子の稽古日だと、オフィスササキ唯一のスタッフ池山直子に言われたので、着物に袴をつけて稽古に混じることにした。
 仕事にかまけてたまに淑子に稽古をつけてもらうのは大抵夜遅くなので、直子と一緒に稽古に赴いたのは初めてだろう。
 ヘビーメタルファンで、ライブの時はゴスロリな直子だが、幼い頃から祖母に躾けられて書道や華道なども嗜んでおり、オフィスササキに来てからは淑子に茶道も指南して約一年、佐々木も驚くほどかなりな上達振りだった。
「ありがとうございましたぁ!」
 一通り弟子たちの稽古が終わると、廊下を行く若い女子たちが、若先生と会えてラッキーだの、何かやたらきれい度が上がってない? だのと、小声ながらきゃらきゃら話しているのが淑子の耳にも届いていた。
 お綺麗ですねとか、お美しいだとかは淑子自身、子供の頃から言われつくしてきたので、もはや何の感慨も覚えないところだが、こと息子のことに関してはまた別の話である。
 まだほんの子供の頃なら、お美しいお嬢様ですね、などと言われても、しっかりと男の子ですと訂正もしていられたのだが、中学、高校でも女子より綺麗だからなどと言われているらしいとの噂を遊びに来た周平の学友たちから聞かされ、尚且つ親衛隊のように屈強な男たちが周平の周りを取り巻いていたのも事実である。
 いくら何でも大学に上がってからはと思っていた淑子だが、周平は相変わらずの美貌を親衛隊だか何だか、常に数多の学友男女ともにもてはやされて取り巻かれ、茶道も絵を描く才能も秀でたものがあるのはわかっていたが、のんびりのほほんとした性格はふがいない夫を思い起こさせて厳しくあたってきた。
 実際のところ、親衛隊を自認する男たちが出入りするようになってからは努々周平がニューハーフだのオカマだのの仲間になったらどうしようなどと一時は真剣に心配した淑子ではあるが、幸い周平の気性は女女したところはなく、大学院を出て先輩の会社に就職をしてから、学生時代から付き合っていた友香と結婚すると言ってきた時はほっと胸を撫でおろしたものだった。
 ところが、周平と友香の結婚生活は長くは続かず、傍目にもがっくりしている周平が不憫ではあったものの、性格上厳しく奮起を促すくらいしかできず、あとは仏壇を開けて、周平にええご縁がありますようにと手を合わせる毎日だった。
 佐々木家の跡取り云々など淑子の中ではどうでもよかった。
 願っているのは遅くにできた一人息子の幸せだけだ。
 ただ最近、淑子にはひそかな溜息をつかせる一抹の憂いがあった。

 


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