「袱紗捌きが違います!」
淑子に叱咤されて佐々木ははっと手元をみた。
「あ、ああ、すみません、濃茶でしたね」
佐々木は慌てて袱紗捌きをやり直した。
「何をぼおっとしているのです。綾小路さんの展示会での初釜は年明け早々なんですよ」
そうだった。
こうして居残り稽古をつけてもらっているのも、時間がある時に稽古をしないと次に時間が取れるのがいつになるかわからないからである。
綾小路のプロジェクトには前回同様茶の湯が組み込まれており、佐々木が率いて成功させなくてはならないのだ。
「すみません」
母親に言われるまでもなく、佐々木は自分でも呆れていた。
確かに忙しさもあっただろうが、いくら何でもここ数日ぼんやりし過ぎだった。
沢村と会うのは三週間ぶりで、会いたかったし、会っている時は仕事も何かと雑多な外野のことも一切吹っ飛んでしまっていた。
だが、朝になって沢村に見送られて部屋を出る時には、吹っ飛んでいた雑多なものが一斉に舞い戻った。
無論、沢村は例のゴシップ記事のことが気になってそういう会い方になったのかも知れないが、問題は沢村がその一挙手一投足がマスコミや巷の関心をひかないではいられない存在だということだ。
そんなことはもう一年前、トモが沢村智弘だとわかった時から考えていたはずだった。
うーーーーん、ラビリンス、やな。
今は俺がラビリンス入り込んでるんかもな……。
いや、何も結婚しているわけでもなし、この関係が未来永劫続くわけでもない、いつ終わってもおかしくはないこともどこかではちゃんとわかっているはずではないか。
もっと冷静に、ならな………。
「しばらく会わん方がええな」
遅くに電話をしてきた沢村に、佐々木は言った。
「しばらくっていつまでだよ!」
案の定、沢村は怒ったように聞き返した。
「マスコミに追いかけられてるやろ、お前もアスカさんも」
そういわれると沢村はぐっと言葉に詰まる。
佐々木にとっては沢村のためというのも無論だが、あまりに沢村に振り回されている自分には冷却期間を置いた方がいいだろうと思ったからだ。
「次のターゲットが現れれば、少しはおさまるんやないか」
もっと面白いネタがあれば、マスコミはすぐにそっちになびくだろうと、多少の慰めを含んで、佐々木は言った。
「わかった。電話はするからな」
明らかに不本意さを滲ませながらも沢村が引き下がらざるを得なかったのは、沢村に張り付いているのがマスコミだけではないからだった。
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