どちらかというと酒を飲む方の沢村に対して、八木沼は出てくる料理を片っ端から清々しいくらいに美味い美味いを連発して食べまくる。
「なるほヨーロッパ系いうやつ? きれいやし。同じハーフでも俺みたいのとは天と地ぃやな。俺なんか、ガキン頃は、クロ、クロいわれよって、兄貴がおらんかったら、俺、完ぺきグレとったもん」
辛いはずの話なのに八木沼はニコニコ笑っている。
「お兄さんがグレないように八木沼さんを守ってくれたとか?」
「ちゃうちゃう、逆や。そらもう、兄貴、半端ないグレまくりで、一時はあの界隈牛耳っとったもんな、ガタイでかいし、顔怖いし、問題起こすとかしょっちゅうで、ヤーさんにもメェつけられたし、俺なんかビビリまくりやった」
「え、まさか、お兄さん、ヤのつくお仕事とか?」
よもやと思いつつ良太は尋ねた。
「それが、オカンが、妹の真矢が後ろ指刺されるようなマネすんのやったら、ウチ出ていけ言うて、兄貴の半分くらいしかない小さい身体でタンカ切りよって、それから兄貴のヤツ毒気抜かれたみたいにおとなしゅなってしもて」
「へえ、いいお母さんですね」
世の中には何事にも動じない女性がいることは良太はよく知っている。
「オカンいうても、俺と兄貴には二番目のオカンやけど。俺らのオカンは物心つく前にアメリカ帰ってしもたから。けどこれがまた、できたオカンで」
八木沼はそこでグラスのビールを飲み干すと、また良太に注いでもらいながらにっと笑う。
「俺らの二十歳くらいン時に、サンフランシスコのオカンが向こうのジーちゃんばあちゃんが会いたがってるよって遊びに来ないか言うてきて、真矢も一緒にて、そしたらオカン太っ腹で、行ってこいて。またこれが笑えるハナシ」
既に自分で笑いながら八木沼は続けた。
「兄貴も俺もこんなナリして、英語のえの字もしゃべれへんのに、真矢は俺が言うんも何やけどそら今時ヤマトナデシコか、てくらい純日本美人なんやけど、俺らと頭のデキがちごて、英検一級てくらいで、向こうで通訳してくれよって、あ、これ、見て見て、俺の向こうの家族やね」
八木沼が携帯で見せてくれたのはインスタグラムにアップされている大家族の画像だった。
「これが向こうのオカンで、これがジーちゃん、アフリカ系? ンでこっちばーちゃん、イタリア系、これがオカンの今のダンナでイタリア系、ダンナの両親は亡くなってるって。この二人が俺らの弟になるジョシュアとアル、んで、これが真矢、今、留学中でオカンのうちでなんやすっかりアメリカンになってしもて」
笑っている一人一人が幸せそうな一家だ。
「いんじゃねー? 幸せな家族で」
無理やり見せられた沢村はボソリと言った。
「いろんな人種が集まってて、面白そうですね」
良太も微笑んだ。
「だしょー? 沢村もどっか混じってるやろ? そのガタイ、日本人とは思われへん」
「俺は生粋の日本人だ」
「そうか? ルーツ調べてみたらおもろいで、きっと」
ひとしきり自分の半生を語りつくし、ガハハと笑う八木沼は屈託がない。
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