好きだから27

back  next  top  Novels


 一方、家族である実の父親に対してともすれば訴訟すら辞さない構えの沢村の心の内を、良太は推し量った。
 八木沼の話も時折上の空な沢村が考えているのはおそらく佐々木のことだろう。
「しばらく会わない方がいいだろうって、佐々木さん」
 収録が終わった後、沢村がぼそりと良太に言った。
 物理的には会えそうなのに状況的に会えない。
 やっぱ、きついよな。
 会えない理由が物理的な方がまだマシかも知れない。
 良太は眉を顰めて酒を口にする沢村を見やる。
 あれは春だったな。
 沢村は佐々木とあの美術館を訪れた時のことを思い出していた。
 樹木はまだ若葉をつけて彼らを出迎えた。
 佐々木が好きな画家の展覧会があるというので、沢村もついていったのだ。
 その日の絵は難解なものではなく、沢村でも素直に描いてあるものをそのまま観ることができた。
 特に佐々木がきれいだとしばらく佇んでいた絵には、若い女性が描かれて確かに綺麗な絵だったが、絵を美しいと魅入っている佐々木そのものが美しいと、密かに溜息をついた。
 そんな時、いつも思う。
 この人を離したくはないと。
 それはいわば常に、佐々木が自分から離れていくのではないかという危惧が、沢村の頭から消えてはくれないからなのだ。
 俺の想いはそんじょそこいらの、いつかは終わるコイなんかとはわけが違うんだ、佐々木さん。
 残念ながら俺は執念深いんだよ。
 佐々木が自分を愛してくれているのは確信しているが、佐々木はやはり沢村の社会的な立場とかを考えているのだろう。
 それも沢村にとってはどうでもいいことなのだが、今は沢村宗太郎を欺くために利用せざるを得ない。
 あの、クソ野郎!
 あんな男に、佐々木さんを、佐々木さんの存在を汚されてたまるか。
 沢村は八木沼の能天気そうな顔を睨みつけながら、酒を呷った。

 


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
いつもありがとうございます