ACT 6
かなり夢中になって仕事をしていたらしい。
さっき直子が買ってきてくれた弁当を食べたと思っていたのに、いつの間にか窓の外は夕暮れに差し掛かっていた。
冷たそうな風が木立の葉を落としながら吹き抜けていく。
十一月も中旬に差し掛かり、佐々木はただでさえ忙しかったところへ、撮り直しCMが二つ重なり、電映社の方は製作費もギリギリらしく、別のタレントを起用してもプランは修正だけで進行ということになったものの、ドラマ絡みのCMの方は、多少の余裕もあるということでクライアントが一から創り直しを要請してきたため、佐々木の仕事量はどんと増えたのだ。
お陰で徹夜、半徹夜がここのところザラで、今朝も気づいたらオフィスのパソコンの前で朝になっていた。
沢村からは毎日のように電話が入るが、知らず知らず昨日は、仕事がなかなか終わらないと口にしたところ、じゃ、しばらくは電話も遠慮する、と言った。
あんまり根を詰めない方がいい、沢村は佐々木を気遣って電話を切った。
沢村からの電話が邪魔というわけではないのだ。
むしろ、声を聞いているだけでほっとする。
ただ、あまり頭が働かないから、ほんとに声を聞いているだけで、ロクな受け答えができない。
沢村もそれを感じ取ったのだろう。
電話が切れてから、無性に寂寞とした想いに駆られて、佐々木は思わずコールしなおそうとして、やめた。
携帯を握りしめてしばしぼんやりしている佐々木に気づいたが、ちょうど帰ろうとしていた直子はどう声をかけていいかわからなかった。
「沢村っちは変なオッサンにおっかけられてるし、佐々木ちゃんは今までになく忙しくて、ほんと体壊すんじゃないかって心配だし、二人ともまともに話もできないなんて、もう、どうにかならないのかな!」
昨日も佐々木に付き合って、八時頃まで手伝えることは手伝っていたのだが、オフィスを出てから直子がどこにもぶつけようもない心のうちを電話をしたのは良太だった。
「そっか。小田事務所の遠野さんにも確認したけど、何かまだしつこく嗅ぎまわってるらしいんだよな。どうもアスカさんの方まで手を伸ばしてきたみたいで、まあ、それってこっちの思惑通りと言えばそうなんだけどね」
「そっか。もちょっとの辛抱って感じ?」
「うん、まあ、そうだね」
良太の答えも曖昧にしかならないのは仕方ないと直子もわかっていた。
だが、直子としては佐々木に何もしてやれないのがもどかしくて仕方なかったのだ。
「今日は、ちゃんと切り上げて帰って寝ること!」
直子の就業時間も既に過ぎていたが、佐々木のために夕食の出前を取り、お茶も用意をしてコートを羽織ってから佐々木に言い渡した。
今夜は週一回のお茶の稽古日なのである。
「わかった? 絶対オフィスでとかダメだからね、佐々木ちゃん!」
ビタミンサプリメント、栄養ドリンク、ゼリー類も佐々木のために用意はしてあるが、そんなものよりもしっかり睡眠をとってほしい、というのが直子の想いなのだ。
しかし、わかった、などと返事をしながら、手を抜くということを良しとしない佐々木は、とことんやってしまう質だ。
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