好きだから59

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「俺にそういう気づかいとか、求めんな」
 不遜な態度で沢村が言う。
「ったくよ」
 良太は呆れて首を横に振る。
「まあ、佐々木さんには似合いそうなストールとか………。あああ、クソ!」
 フンと良太は佐々木のことはちゃんと考えてるんだとそんな沢村を鼻で笑う。
「小田さんが真岡にアポ入れたんだが、向こうがまだ手が空かないとかぬかして、話もまだなんだ」
 沢村は思わず、テーブルを拳で叩きつける。
「クッソ! あんの古ダヌキ!」
「テーブル壊すな」
「工藤は?」
「まだドイツ」
 すると今度は沢村がフンとせせら笑う。
「あーあ、オヤジが足りねぇよなぁ」
 嘯く沢村の腹に、良太は拳を入れた。
「うっせぇよ! この、筋肉やろー! ってぇ!」
 びくともしない沢村に毒づいて、良太は沢村の腹に入れた手を振った。
「さあさ、お茶入りましたよ」
 鈴木さんが紅茶とケーキを運んできた。
「いい香りですね」
 沢村が言った。
「でしょう? フォートナム&メイソンのロイヤルブレンドをいただきましたのよ」
 良太をからかって、少しばかり気持ちを浮上させた沢村は、ここ数日できなかったメンテナンスのため、パーソナルトレーナーの待つジムへと向かった。
 
 
 
 
 朝からビル風の舞う寒い日だったが、神宮球場は三万人近くのプロ野球ファンで熱気に溢れていた。
 夏に九州地方をはじめ日本中を直撃した大型台風災害やオーストラリアの森林火災、これまでに起きた国内、アジア地区の地震災害などに対する復興のための、関西タイガースと在京球団が先頭に立ったプロ野球選手による合同チャリティイベントが間もなく始まろうとしていた。
 毎年選手会長の声掛けで開催が決まるこのイベントには、ギリギリまで参加選手がわからなかったが、先月末、在京球団所属か関東在住の人気選手約二十名ほどの名前が発表されると、主に女性ファンがどっと増えて座席がうまった。
 参加選手は二十名だが、午後に行われるチャリティバザーには、往年の名選手や監督、MLBに行った人気選手からのグッズの出品もあるということで、それを目当てにしているファンも多い。
 稔もその一人だ。
 世話になった医学博士が来日して後援会に行かねばならず、スワローズのファンイベントには残念ながら行けなかったという稔は、この日のイベントに燃えていた。
 ロングベンチコートの下には、稔に渡された津波黒のジャケットを着こみ、スワローズのキャップを被った佐々木は、稔の後についてシートに向かったが、一塁側のベンチ上というSS指定席からは、特設ステージがよく見えるだけでなく、近い気がしてちょっと焦る。
 いや、近いといっても選手からはよもや観客の顔などわからないだろうと、気を落ち着かせて佐々木は球場を見回した。
 この球場なら行けないことはなかったのにと、ゲームを一度も見ていなかったことを、佐々木は今更ながらに後悔した。
 やがて男性アナウンサーの司会で選手が登場する。

 


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