好きだから6

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「万が一沢村宗太郎氏の行為があなたや佐々木氏のプライバシー侵害となり不利益になるような不法行為だと判断すれば告訴も辞さないと。この場合、主に損害賠償請求に、仮に名誉を傷つける不法行為や犯罪行為に値するようであれば名誉棄損罪ともなりますが、お父上相手でも?」
「無論です」
 詳細を話し合い、やがて小田が帰っていくと、沢村は大きく息をついた。
「おい、良太、お前、T大法学部なんか出てるくせに、何で弁護士じゃねーんだよ!」
 八つ当たりでしかない難癖に面倒な書類を作っていた良太はついキーボードの手を止めた。
「うっせーよ! 俺は学生時代野球しかやってなかったんだよ!」
 大体弁護士とかそう簡単になれるもんじゃないだろう。
 まず試験受からないとだし、と考えて良太は卒業前に司法試験に受かっていたという小田の同期が身近に約一名いたことを思い出した。
 くっそ、それこそ何で工藤は弁護士にもならずに芸能プロとかの社長なんかやってワーカホリックに大阪なんか行ってるんだよ、とでも八つ当たりしたいところだった。
「まあまあ、とにかく、沢村さんもこちらでお茶いかが? 藤堂さんのお土産のブラウニー、とっても美味しいんですのよ」
 空気がどんなに剣呑でも鈴木さんのおっとりした言葉には和まずにはいられない。
 しかしアスカの向かいに腰を下ろした沢村は、藤堂の土産というブラウニーを睨みつけた。
 藤堂と一緒に仕事先のニューヨークから戻ってきたはずの佐々木とは電話ごしに言葉を交わしたくらいでまだ顔も合わせてはいない。
 例のスポーツ紙のゴシップがテレビや写真週刊誌を沸かせたのは二人がまだニューヨークにいた時だが、ネットにも流れているのでとっくに知っていたと思うし、それについて沢村はまだ何の弁明もしていないのだ。
 内心焦りはあるものの、当の佐々木は忙しいし、沢村も球団関係のイベントや後援会のパーティなどであちこち飛び回っていた上に、こうして弁護士に相談しなくてはならないような事態になってしまった。
 とりあえず佐々木とは、明日何とか会う約束を取り付けたのだが。
 どうやって、佐々木さんと会うか、だよな。
「オフィス、狭いから聞こえちゃったんだけどさ、沢村っち、何か、物騒なこと言ってなかった? 訴訟とか犯罪とか? あ、これ美味しい!」
 アスカは遠慮なく大きな口を開けてブラウニーを食べる。
 狭くはないが、奥のソファセットからそう遠くはないから、よほど小声でしゃべらなければ聞こえてしまうだろう。
「アスカさん」
「いんだよ、小田先生にもここのオフィスは俺らのこと知ってるからって言ってあるし」
 窘める秋山を遮るように言うと、沢村はブラウニーを手に取ってがぶりと半分ばかりを食べてしまう。
 小田の事務所を訪ねるのも憚られて、考えた挙句、このオフィスしか思いつかなかったのだ。
「で? あのご令嬢と結婚するの?」
「するわけない!! ったく、冗談じゃない!」
 揶揄するアスカに沢村は思わず声を上げる。
「ってか、何があったのよ?」
 さりげなくも有無を言わさないアスカの突っ込みに、こうなったらとばかりに沢村は口を開いた。

 


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