ACT 11
神宮球場を後にした佐々木と稔は、少し青空の出てきた空の下を青山通りへと出た。
「渋谷行くか?」
「いや、渋谷混んでるやろ、表参道まで歩かへん? 運動不足解消に」
「表参道ね、俺にはとんと似合わねぇとこだな。元嫁との初デートってやつが、青山の何とかってしゃれたレストランで、俺がガチャガチャやってたら、もっと静かに食べられないの、とか怒りまくって。こりゃもう付き合う以前の問題だな、と俺の方は思ったんだが、何故かまた食事に誘ってきて、今度は渋谷の焼き鳥屋で、何故か付き合うようになって、結婚にまでこぎつけたんだが。結局、こないだ話したみたいなことになって、ジ・エンド」
佐々木は笑い、「その言い方やと、まだ未練あるんやない?」と聞いた。
「ない、とは断言できえねぇが、何度目かの別れ話の末だからな、会えば喧嘩ってやつで、いい加減あいつも匙投げたんだろうさ」
元嫁は世田谷の大きな総合病院の一人娘で、今は副院長の職にあり、ゆくゆくは父親のあとを継ぐことになっているという。
「啓應受かったのに、都会は嫌だとかでわざわざ東北の、俺がようやく受かったY大に入ったって変わり者っちゃ変わり者だよな。当然、成績はトップでよ、卒業してからスタンフォード大に留学して日本に戻ってきた時、俺はまだY大の医局にいたんだが、環希から会わないかって連絡くれて、そん時、実家の病院に空きがあるから来ないかって言われてホイホイと。で、成り行きで結婚して」
青山通りを歩きながら、稔の元嫁の話になった。
「それでなんで国境なき医師団に?」
「まあ、なんつうか、病院に一人医師団にいたっつう医者が来て、感化されちまって」
「息子さんとはちょくちょく会ってるわけ?」
「健斗? そこは自由に、予定が会えば」
「健斗か。いくつ?」
「六歳になる。今度の春、小学生だ」
「へえ。写真見せてよ」
佐々木に言われて、稔はしばしもじもじしていたが、たたたっと携帯で画像を探して、黙って携帯を佐々木に差し出した。
「うっそ! これシェパードやろ? 健斗、六歳? でか! 稔さん、まんまやない」
シェパードの首に腕を回して笑っている少年は、佐々木の記憶にある稔そっくりで、六歳という年齢にしてはかなり大きく見えた。
「クッソ! 環希のヤツも何かってぇと、健斗のことミニ稔、とかってからかいやがって」
「DNAがここまで人を定義づけてるいうの、初めて見たわ」
「るっせ!」
表参道の交差点までいかないうちに右へ折れ、佐々木が案内したのはとんかつ屋だった。
「おう、されたレストランよりは百倍ましだな」
「前に仕事で連れてきてもろて、美味いんや」
腹が減っていた上に歩いたのでとんかつ定食を二人とも黙々と食べた。
「ふう、食った食った」
お茶をごくごく飲んでから、稔が言った。
「もろ、オヤジやな」
「るっせ!」
だが稔とどうということはない話をしながら、佐々木の思考はいつの間にか沢村へと向かっていた。
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