好きだから72

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 ACT 12
 
   
 いつもはLAかグアム、今年は北海道あたりで自主トレを行ってきた沢村だが、年明けをまたず十二月から都内にある大手アパレルメーカー株式会社ONOの施設を利用して既に自主トレを開始していた。
 ONO傘下のスポーツウェアブランド「アディノ」は、今年、沢村とアドバイザリー契約を結び、沢村を起用したウエアのCMはかなりな評判を呼び、アディノの名前を全国に知らしめただけでなく、沢村智弘の人気を高めることにもつながり、何種類かのポスターが盗まれたりもした。
 ONOが持っているスポーツクラブには野球部もあり、都内にグラウンドや屋内練習場、最新技術や有能な人材を取り入れたアスリートのためのジムも所持していて、CM契約の際、是非トレーニングに使ってほしいと広報担当者に沢村も請われていたのだ。
 また今までの沢村にはなかったことがもう一つ、この自主トレには、交流戦で少し話をするようになったレッドスターズの次期主砲候補、八木沼大輔も参加している。
 スポーツ情報番組「パワスポ」にプロデューサーとして名を連ねる青山プロダクションの広瀬良太は、沢村と八木沼が自主トレを開始して三日目に取材の許可を得て、局アナの市川を伴い、他局の取材陣に混じって屋内練習場を訪れていた。
 外は冷たい雨が叩きつけるように降っていたが、中は、二人の選手の鬼気迫るほどの意気込みで思わず取材陣は圧倒されるほどだった。
 マシーンを相手に二人は競争するかのようにガンガン飛距離のあるバッティングを披露している。
「パワスポ」は他局の取材が終わった最後に二人にインタビューすることになっていた。
 良太はしばらく沢村のバッティングを見ていたが、やがて大きく息をついた。
 先月末、沢村に小田弁護士からの報告を連絡した時も何となく感じていたことだが、何か違和感がある、のだ。
 父親らをとっとと逮捕でもしろというくらいな勢いで、父親や父親が取締役を務める朝日ホールディングスの顧問弁護士真岡に代理人である小田弁護士を通して告訴も辞さないことを突き付け、父親との決別すら望んで息巻いていた沢村だが、実際ほぼ決着がついた事実を告げると、わかった、世話をかけた、と、あまりにも沢村らしからぬ殊勝な態度に良太はむしろ面食らった格好だった。
 沢村の父親はともかく、小田が青山プロダクションだけでなく沢村の代理人として真岡の事務所に赴き、沢村の意向を告げた時、真岡は拍子抜けしたように、智弘くんが、と呟いて後、今後一切、沢村の周囲を探るようなことはしない、もちろん、沢村の知人友人に対しても同じくと、全面的に小田の提案を受け入れた形になった。
 沢村の父親にもきっちり要望を飲んでもらうことも確約した。
 親の過干渉にしては盗撮や盗聴など犯罪の域に入るような行為を激怒していたはずの沢村だが、親に対して告訴などやり過ぎだと今更ながらに思ったとか、はあり得ない、と良太は思う。
 だったらなんだ?
 それにあいつが自分ち以外で無精髭とか、ないって。
 違和感は今日の沢村の外見からもうかがえた。

 


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