良太が知る限り、プライベートでなければ無精髭はないし、八木沼が相変わらずサービス精神旺盛で、一人ボケ突っ込みがまた大いに受けているので、一段と沢村の不愛想なのが際立っている。
ところが、恐る恐るインタビューする各局のアナウンサーに対して、いつもなら一言二言で終わるはずが、これまた妙に冷静に理路整然と素直に答える沢村というのがらしからぬ所以なのだ。
沢村が雰囲気はワイルド系になのに柔らかくなったとか、八木沼効果とか、他局のアナウンサーが勝手なレポートをしているのを見て、良太はますます眉を顰める。
ぜってー、あり得ない。
二冠、三冠王も沢村の天賦の才なんて評されることがあるが、無論それだけトレーニングも努力もしているし、これはプロデューサーとしての守秘義務? いや、友人として、本人が口にしない限りは良太も他言するつもりはないのだが、クールとか言われているがその実熱いやつだったり、と思えば、現在の関西タイガースの闘将星川監督を尊敬しているのだが、今は亡きデータ野球の名将でかの古谷監督の師匠でもある野田監督にもかなり傾倒していて、沢村のパソコンを覗けば、各選手のみならず監督を含めてのデータと分析がかなり詳細にインプットされ、ああ見えて実はクレバーな一面が垣間見えたりするわけだ。
母方の祖父からかなりの遺産を譲られたらしいが、沢村の父親が高校を卒業と同時に家を出てから沢村がそれがあったから大学の費用から全てそれを使っていたと思い込んでいたように、海外に行っている先輩の部屋を借りている間、沢村がデイトレーディングで稼いでいたなどとは自ずから話した相手でなければ知らないだろうが、それも沢村のクレバーな一面でもある。
ともあれ、オフシーズンのこの機会にデータの分析に夢中になり、朝が来てしまってあたふたとやってきたのが今日の沢村だ、なんてことは百歩譲ってもやはり、ないだろう。
とすると、やはりアレ、しか考えられない。
それは先日、CM撮影から戻ってオフィスに寄ったアスカの言動の中に今日の沢村と妙に符合する話があったからでもある。
「今日の佐々木ちゃん、なーんか、違ってたのよ」
鈴木さんが用意してくれたコーヒーとケーキをぺろりと平らげてから、アスカが良太に訴えた。
「ほら、佐々木ちゃんてさ、美形だけどおっとりしてるからみんなと和気あいあいな雰囲気じゃない? それがさ、いつもなら冗談の一つもあって和やか~に進むのに、もうピキピキ仕事しちゃってますって感じで、今日はもう文字通り超クール? だと、もう美貌が際立っちゃって話しかけるのも怖いくらい」
これはもう二人の間に何かあったに違いないだろう。
最近、佐々木のことで沢村のためにとあれこれ加担してきた周囲の人間としては、何があったんだと気にかかるところだが。
これ以上周りがやんややんやとお節介を焼いていいものかと、良太は思うのだ。
要は二人の問題なのだ。
それに、思い違いでなければ、沢村は今日良太の方を意識して見ようとしない。
これまで散々泣きついて振り回してきたくせに何だよ、という思いも無きにしも非ずだが、それだけ深刻ということか。
ならば敢えて何も聞かないことにする、と良太は心の中で呟いた。
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