俺がおかしいと、良太も気が付いているらしい。
たった今のスイングで飛んで行ったボールの行方も追うことなく、沢村はマシンから放り出される次のボールを待って思い切りボールを叩きつけた。
あいつはああ見えてアホじゃないから、察したのだろう、何も話しかけてこない。
フン、こんなていたらく、誰に話なんかしたいもんか。
沢村はひたすらボールを打ち続けた。
浮かれてた。
あの人を手離したくないばっかで。
俺の身勝手なやり方で振り回して。
あの人の心の内を思い遣ることもしないで、何が愛してるだ!
今日ばかりは、八木沼の能天気さが有難かった。
抜けきらない酒をランニングでごまかしたとか、お陰で俺のダメダメさ加減に報道陣も興味を持たないでくれた。
沢村は自虐的に嗤いながら、バットを振り続けた。
あの夜、佐々木と別れてからというもの、頭の中は滅茶苦茶だった。
頭の中だけではない、生活も何もかも、かろうじてこなしているといった具合で、どこまでも自制できない自分を持て余す日が続いていた。
あの男と佐々木がと思い出すとはらわたが煮えくり返るような思いに駆られ、居ても立っても居られず、もう一度佐々木を箱根にでも連れて行こうかなどと思ってみるものの、それではいつぞやのバカな男の二の舞だと、寸でのところで自分を抑え込む。
ただ、佐々木に会いたいというあらがいがたい思いが時折沸き上がり、出口のない苦痛に苛立ち、立ち往生するばかりだった。
地下鉄半蔵門線半蔵門駅の一番町側出口から歩いて数分のところに建つ、六階建てのまだまだ新しい瀟洒なビル。
一階には品のいいカフェが入り、三階から六階はマンションになっており、入居者は中産階級以上の住人である。
その二階が「オフィスササキ」だ。
佐々木自身が知らないうちに、佐々木が籍を置いていたジャストエージェンシー社長の春日が、佐々木の母淑子が所有していた古いビルの立て直しを提案して、独立を余儀なくされた佐々木は春日の肝いりですっかり出来上がったセンスのいいオフィスにそのまますんなり収まったというシロモノだ。
佐々木に独立を勧めたとしても、本人に任せていたらオフィスを構えるだけでもいつになるかわからないと、本人の性格を知った上で春日がたったかお膳立てをした結果である。
ぬるま湯に浸かっているような状況が居心地がいいからと、春日が本人を追い立てなければ、ずっと佐々木はジャストエージェンシーのデザイナーでいただろう。
だがそれでは佐々木の才能は埋もれたままになりかねないと、春日は心を鬼にして佐々木を荒波に放り出したのだ。
ジャストエージェンシーデザイン部顧問と取締役という肩書を佐々木に残したのは春日の最後のあがきであるが。
お陰で独立してからというもの、あちこちからオファーが入り、独立一年目はこれまでの佐々木を顧みればてんてこ舞いな仕事漬けだった。
もともとぬるま湯がええのに、という佐々木にとって、そういう状況にしてくれた春日への恨み節も時折口にしながらも、アシスタントの直子のフォローもあって仕事を効率よくまわしつつ、何とかオフィスとしても落ち着いて二年目に入り、順当に数か月が過ぎたところだ。
十二月に入ってから佐々木も直子も忙しない毎日を過ごしていた。
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