好きだから75

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 仕事上は順調すぎて笑えるくらいな状況で、これでもどうしてもな仕事以外はセーブしているのであるが、直子も自分の仕事以外でも届け物をしたり、取引先に受け取りに行ったりとてきぱき動いてくれている。
 オフィスでの服装にはジャストエージェンシー時代から何の制限もないが、直子は取引先に行く時用のスーツをロッカーに置いていて、佐々木よりもビジネスマン的素養はしっかりしている。
「ただいま戻りましたぁ」
 オフィスに明るい声と共に直子が帰ってくると、重だるい空気が変わる。
 重くしているのは自身のせいだとは自覚はあるのだが、今のところ一向に軽くなる気配がない。
 直子が楽し気に飾り付けている大きなクリスマスツリーが来客用スペースで静かに輝いているが、それもあまり重い空気には効果がないようだ。
「お帰り。寒かったやろ」
「かなり、冷え込んでるよぉ。クッキー買ってきたから、ちょっとコーヒーブレイクしようよ」
「ええなぁ、なんやキリキリやってたから肩とか首凝ってもて」
 佐々木は首を左右に傾げてから、椅子から立ち上がった。
「佐々木ちゃん、夢中になるととことんやっちゃうから、ダメだよぉ、根詰めすぎ!」
 ハハと空笑いしながら、佐々木はテレビの前のソファへと移動した。
 仕事に没頭していないと、思考があらぬ方向へ飛んで行って自分で制御できなくなりそうで、ついつい画面に噛り付いてしまうというのが、ここ最近の佐々木の常だった。
 テーブルの上にぼんやり視線を巡らすと、先日怒りとともに直子が持ってきた雑誌がまだ置いてあった。
 直子が何を怒っていたかというと、佐々木本人が知らないうちに撮られた写真が載っていたからである。
 二十代から三十代をターゲットにした女性ファッション誌で、お洒落な店を紹介したページのイメージ画像なのだが、それに使われていたのが、先日仕事でたまたま数人のモデルたちと言葉をかわしている時に撮られたらしい写真だった。
 撮影というよりスナップ的に撮られたものだが、くっきりはっきり佐々木が写し出されていて、たまたま気づいた直子が佐々木に問いただしたのがきっかけで、発覚したのである。
 モデルたちの中にいても引けを取らないどころか、その美貌が際立っている。
 そう思ったのは直子だけではなかったらしく、当の雑誌社にこの人物が誰かという問い合わせが何件もあったらしい。
 実はこの写真は編集者がカメラマンから渡されたデータから無造作に選んだもので、読者からの問い合わせによって、慌ててこの人物の特定にかかったのだが、モデルたちの所属する事務所に問い合わせても、このモデルはうちの所属ではないと言われ、編集者があちこち探していたところへ、直子からの怒りの電話が入った、というわけである。
「存じ上げなかったこととはいえ、こちらの不手際で、大変申し訳ございませんでした」
 後日、菓子折りを手に編集長がカメラマンを伴ってオフィスにやってきて、平身低頭、謝罪の言葉を並べ立てた。
「あまりにモデルさん然としておられる美貌でよもや、業界屈指のクリエイター佐々木様とは思いもよらず、弊社といたしましては、大変恐縮ながらいかなるご請求にもご対応させていただきますので、何卒穏便に……」

 


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