好きだから86

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 工藤に水波のことを報告すると、不可抗力だ、無駄に悔んだりするな、とだけ言われた。
 アスカにも申し訳ないと言わずにいられなかったが、秋山さんが謝る必要なんかどこにもないわよ、と彼女はひたすら水波に対して文句を言った。
 そういった経緯を良太も知っているので、秋山が余計に疲労を背負っている気がして何か自分にできることはないかと思うものの、はっきり言って良太のどこにも人の手助けをしている暇はないのである。
 翌春放映予定の「レッドデータアニマルズ‐自然からの警告」は既に第二弾の話も浮上しているし、志村主演、奈々共演の「大いなる旅人」の第五弾は映画化となり、今回は京都、東京、ニューヨークを結んで、安倍晴明の謎を取り上げるというもので既に撮影が進んでいるが、小笠原が出演予定の大阪へ行ったと思えば、フジタ自動車のCMで志村と共にドイツへ飛んだりと工藤が相変わらずワーカホリックなため、俺の代理でお前があちこち顔を出せ、とか言われて、「パワスポ」や「レッドデータ」の打ち合わせの合間を縫って良太がそれ以外の仕事を一手に引き受けていた。
 くっそ、「大いなる」はニューヨークの撮影が終わってもまだ東京でも撮影があるし、そっちまで俺に丸投げしようとか、そうは問屋が卸さないからな!
 心の中で工藤に文句を並べながら、良太がスケジュールの確認をしていると、アスカが傍に立っていた。
「ねえ、ちょっと、大事な話」
 いきなり小声で腕を引っ張られた良太は、工藤のデスクまで連れていかれて、二人してしゃがみ込んだ。
 ちょうど鈴木さんは、荷物を運びこむ宅配業者に対応していた。
「いったい、何ですか?」
 今度は何を企んでいるんだ、とばかりアスカを見ると、どうやらいつになく難しい顔をしている。
「さっき、車の中で気づいたんだけど……秋山さんがさ」
「秋山さん?」
 よもや、あまりの多忙ぶりに秋山がまさか、とあらぬ推測をしかかっていた良太に、「沢村っちが変だっていうのよ」とアスカが口にした。
「変………って」
「こないだのパワスポの、沢村と八木沼のインタビュー、録画してたのようやく昨日見たらしいの、そしたら、変だって」
「まあ、あいつは初めは調子でないし、しり上がりに調子あげて、開幕に合わせていくやつだから」
 良太はハハハと空笑いする。
「違うのよ。答え方が素直過ぎておかしいっていうのよ。覇気がないって」
 秋山はやはり鋭い、と良太は思う。
「まあ、誰でも調子が悪い時はあるし」
「ううん、佐々木ちゃんも同時に変っておかしいじゃない? あたし今さっき、ふっと思い当たったの! ひょっとしたら、あたしが二人をおかしくしたのかもしれない」
「何それ……」
「マジによ、良太」
 真剣な目をしてアスカは良太を睨みつける。
「あの日……」
 どの日だよ、と良太は心の中で突っ込むが、一応アスカの次の言葉を待った。
「あたしの携帯、佐々木ちゃんが届けてくれたのって、あの日の翌日の朝だったのよ」
 良太は大急ぎで携帯を届けに来た佐々木を思い出した。
「打ち合わせが終わってみんな立ち上がったのよ。あたしと秋山さんが一番先に出て駐車場に向かったの。その駐車場で、あたしが話したことを、もしか佐々木ちゃんが聞いたとしたら」
「何を?」
 アスカの言葉は良太も気になった。

 


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