「だから、沢村っちの父親が興信所を使って沢村っちを調べさせてることとか、相手が男だとか言ったからとか、それから、沢村っちの部屋とかあたしの部屋の盗聴してるとか、確か、佐々木ちゃんの名前は出してないけど、迂闊に会えないから沢村っちが我慢してるとか、そんなこと……どうしよう、もし………だって、携帯拾ったらすぐ私のだってわかるし、佐々木ちゃん、ひょっとして追いかけてきて、聞いちゃったとか……だったら」
アスカの表情が徐々にこわばっていく。
「もしそれが原因で、二人が喧嘩したとか……どうしよ」
「ちょっと落ち着いて、アスカさん。飛躍し過ぎだよ」
そう言いながらも良太は、可能性がないとはいえないかもとは思う。
二人が変だと思い始めたタイミングが確かにその数日後くらいからなのだ。
自主トレが変というより先に、あれだけ怒っていた父親とのトラブルが片付いたと連絡した時の沢村の対応があまりにらしくなかった。
だが、だからと言ってアスカのせいではない。
「どうしてそう突拍子もないことを考えつくんだ? アスカさん、疲れているからだろう。もう、今日のところは帰ろう」
いつの間にか傍らに立って秋山が見下ろしていた。
渋々立ち上がったアスカの肩を、秋山がポンポンと叩く。
ソファに戻ったアスカが飲みかけの紅茶を飲んでワッフルを食べ始めると、秋山が良太にこそっと言った。
「もしかして佐々木さんが聞いたっての、ほんとかもね」
良太は秋山を見た。
秋山が言葉にすると信憑性がぐんと高くなる気がした。
「まあ、でも、アスカさんのせいじゃないですよ。もともと沢村がポカやったのが原因ですから。今度沢村つかまえてちょっと聞いてみます」
「また、連絡してくれ」
オフィスを出ていく二人を見送りながら、良太は頭の中でまたスケジュールを思いめぐらした。
明後日から二泊三日で京都だろ? それでパワスポの打ち合わせ、土曜は沢村、トレーナーのところだっけ? 日曜日は何か予定入ってんのかな。
いっそのこととっとと忘年会を理由に沢村を呼び出そうと考えたのだ。
その時、電話が鳴った。
「オフィスササキの直子さんからですよ」
鈴木さんに告げられて、良太は電話を取った。
「お疲れ様、忘年会二人とも参加だよね? ありがとう」
「お招き有難う。楽しみにしてる。あのね」
直子が少し言葉に詰まる。
「どうかした?」
「忙しいのはわかってるんだけど、良太ちゃん、近日中にどこかで時間取れない?」
何となく彼女の切羽詰まったような言葉のニュアンスから、話の内容を察することができた。
「今日明日の夜を逃すと予定が入れづらいかも」
「今日なら八時くらいでもいい?」
「わかった、どっかでご飯食べようか」
そっちまで行くという直子に、オフィスから歩いて五分ほどのところにある割烹料理の店を教えた。
以前工藤が連れて行ってくれたところで、個室が居心地よかったのだ。
話が話だけに、個室の方が落ち着くだろう。
アスカさんの告白の直後に直ちゃんが話がしたい、なんて。
いずれにしても、さっきのようすではあまりいい話じゃないな。
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