良太が店に着くと、既に直子は予約した席に通されていた。
「ごめん、待った?」
「早く着いちゃって。でも、ここ何か高そうじゃない?」
上は黒のタイトな上着を着ているが、下はレースをふんだんに使った膝丈のスカート、細身の編み上げブーツは厚底。
相変わらずな直子だが、メイクはナチュラル、華やかな髪も後ろでおとなしめに大きなバレッタでとめている。
「今日は来てもらったし、奢る。直ちゃん嫌いなものなかったよね? もう、予約しちゃってるし」
「え、いいの? 十二月って何かと入り用だし、大丈夫?」
「うん。俺が奢ってもらうこと多いし、気にせず食べようよ」
良太は笑った。
「んじゃ、ありがとう、遠慮なく」
胡麻豆腐の先付、大根の昆布締めをはじめ、蟹しんじょ、しし唐、しいたけなどの前菜、たらの西京漬けの後の寿司が美味だ。
直子はぽつりぽつりと、最近の仕事の忙しさに加え、年明けの大和屋のイベントで、佐々木淑子率いる一門の初釜が開催されるので、その準備がなかなか大変なのだというようなことを食べながら話した。
「先生、先月足を捻挫されたから、しばらく不自由されてお稽古も思うようにいかなかったこともあったりして、先輩のお弟子さんたちもぴりぴりしてたし」
「え? 佐々木さんのお母さん? 今は大丈夫なの?」
「うん。初釜が迫ってきたから、もう上のお弟子さんたちビシバシ怒られて、あたしも最近怒られるようになって」
「え?」
「多分、あたしの思い上がりだけじゃなく、先生って、上達し始めると厳しくなるのよ。佐々木ちゃんはあたしらが帰った後で稽古してるんだけど、最後の人が片付けるから、佐々木ちゃんここんとこ根詰めてるし、できるだけ片付けとかやっとこうと思って、そしたら半端なく指導が入っちゃってるの聞こえて、可哀そう」
はあ、と直子は大きく溜息をつく。
ひとしきり食べ終えると、直子は思い切ったように言った。
「ずっとおかしかったんだ、佐々木ちゃん。でも何も言わないし。そしたら今日、佐々木ちゃんの留守に手塚先生が急に現れて、先月の終わり、神宮であったチャリティイベントに佐々木ちゃんと行ったとか言うし」
「ちょっと待って、手塚先生って?」
「前にも佐々木ちゃんと出かけてたし」
どうも混乱しているらしい直子の話から、そういえば前にも直子が良太に電話をしてきたことがあったのを思い出した。
直子もちょっと話したら落ち着いたらしく、あの時は詳しく聞いたわけではなかったのだが。
今度は何者だよ?
要は沢村と佐々木さんだけの問題だろ?
何か、外野に登場人物多すぎやしないかっての。
「いや、佐々木さんだって誰かと出かけるだろ?」
「違うのよ! 手塚先生って、佐々木ちゃんの幼馴染で、先生の外科医なの」
直子は淑子が足を捻挫した時からのことを手塚について一通り説明した。
「だけど、幼馴染で久しぶりに会ったんなら飲みに行くくらい」
「だからそれだけじゃなくて、神宮に二人で行ったってこと、今日、あいつぺらぺらしゃべるのよ。スワローズファンだとか、それはいい、けど、佐々木ちゃんから誘われたっていうわけ。仕事に関係しているからとか、あたし、そんなこと何も聞いてないし、イベント行ったことだって」
唇を尖らせて、直子は続けた。
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