好きだから89

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「別にわたしに報告しなくちゃならないってことはないけど、もしかしたらイベントで沢村っちに会ったのかなとか思ったら、手塚が昼くらいには神宮出たって。それから一緒にご飯食べて買い物して、飲みに行ったって。何かまるで………」
 そこで言葉を切った直子は、少し目が潤んでいるように見えた。
「佐々木ちゃん、本人気づいてないみたいだけど、時々仕事が手につかない感じがあって、忙しすぎるからってだけじゃなくて、やっぱりおかしいのよ。そしたら、今日、手塚が、佐々木ちゃんの付き合ってる相手知ってるかとか聞いてきたの! あいつ絶対、佐々木ちゃんのこと狙ってるんだよ! だから、佐々木ちゃんには誰にも間に入れないくらい相思相愛の恋人がいるって言ってやったの。そしたらあいつ、なるほどな、とか言うの。そうするとやっぱな、とか。それってどういうことって聞いたんだけど、あいつ、じゃあまたとかって、帰っちゃって。何が何だかもう!」
 一気に言い放った直子の憂慮する思いが移ったように、良太もふうっと息をついた。
 その手塚さんって、何か知ってるんだろうか。
「実はさ、こっちも今日、アスカさんが」
 良太はひょっとして佐々木が沢村とその父親のトラブルのことを知ってしまったかもしれないことを話した。
「アスカさんも悪気があったわけじゃなくて、つい……」
「あたしだって、佐々木ちゃんがいないとこでは、沢村っちのクソオヤジのやつとか言ってたからわかる。でももし佐々木ちゃんがそれ知ったら」
「やっぱ、沢村に三行半だよな。だから沢村のヤツ、ここんとこてんでらしくないっつうか。あいつなりに佐々木さんには真剣だったからさ」
 はあっと、良太は沢村に同情した。
「でも! 佐々木ちゃんはそんなことで別れるとかしないと思う。多分、自分が沢村っちの邪魔になるとか、考えちゃったんだよ、きっと。だって、元奥さんのことだって、佐々木ちゃんの傍にいたら絵が描けないとか言われて、奥さんのために別れてあげたような人だよ? 元奥さんのことは未だに腹が立つけどね」
「まあ、それも憶測だけどね。結局は俺らじゃどうにもできない。二人の問題だからな~」
「だけどっ!」
 涙目で直子は良太を睨みつける。
 歯がゆい直子の気持ちは、良太にもよくわかった。
 きっとまだアスカもわだかまりを持っているだろう。
 そこへデザートが運ばれた。
「食べよ?」
 直子は頷いて黒文字を手に取った。
 口当たりのいい葛切りが熱いお茶によく合った。
「佐々木ちゃん、昨日、八木沼選手のとこ行ってから、今日も変だったんだ。午後からプラグインの打ち合わせ行って、そのまま直帰だったし」
「八木沼のとこって、アディノの? 仕事?」
 また新たな角度からの攻撃かよ?
 良太はお茶を持ったまま、直子を見つめた。
「うん、ほら、水波の逮捕で本谷が代わりにやったスリリングレモンのCM、スポンサーにも好評だったみたいで、そん時の電映社の今西って人、八木沼選手をメインキャラにしたアルコールフリーのビールのCM、強引に佐々木ちゃんに押し付けてさ」
「佐々木さん、でも手一杯だろ、仕事」
 良太ですら佐々木の多忙さを憂いてしまう。

 


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