忙しい年の瀬に、クリスマス寒波によって主に日本海側や山間部は大雪に見舞われ、交通機関にも大きく影響が出た。
新千歳空港では飛行機の発着が遅れたため、空港内で乗客が一夜を明かしたのを筆頭に、西の方が積雪で空のダイヤが乱れている上、東海道新幹線も運休や遅延となっており、京都から少し早めの新幹線に乗った工藤だが、あいにく例によって関ヶ原辺りの大雪で車両が動かなくなった。
工藤高広、東京は乃木坂にオフィスを構える青山プロダクションの社長であり、業界では鬼とも異名を取る敏腕プロデューサーでもある。
タレントの育成とプロモーション及びテレビ番組、映画の企画制作プロデュースが主な業務内容だが、タレントと社員合わせて十数名の器としては小いものの、制作を手掛けたドラマや映画はそれなりにヒットを飛ばし、財界の大物をスポンサーに持つ会社はお寒い経済情勢も何のそのな右肩上がりを続けている。
そのためタレントも社員も無論社長の工藤自身も仕事に追われ、諸事情により万年人手不足で東奔西走する毎日だ。
ただでさえ忙しいにもかかわらず、駅でもない辺鄙なところでストップしたままにっちもさっちもいかないらしい新幹線の中から外の雪を睨み付けながら、工藤は午後から入っているアポにも間に合わないかも知れないとイラついていた。
昨今雪に強い車両になったはずだが、さすがにこの雪の量は予想の範疇を越えたらしい。
青山プロダクションにとっては大事なスポンサーである東洋商事の社長綾小路紫紀と午後四時の予定で会うことになっていたのだが、この分では無理だろうと判断した工藤はデッキに出て連絡を入れた。
紫紀の秘書の野坂に、年末の挨拶を兼ねて訪ねる予定だったのだが、良太だけが行く旨の言伝を頼もうと思ったら、すぐに紫紀に回された。
「ああ、年末寒波あちこちで交通を引っ掻き回してくれてますからね。お気になさらないでください」
乗車している新幹線が雪で停まってしまいいつ動き出すかわからないと告げると、紫紀は愛想よくそんなことを言った。
「申し訳ありません。広瀬を向かわせますがよろしくお願いいたします」
「もちろん。ああ、その代わりと言っては何ですが、正月、うちの初釜にいらっしゃいませんか?」
紫紀という男はまさしくただでは起きない。
気前よく引き下がりながら、次の要求を出すのを忘れない。
そこは工藤もあやかりたいと思うところだ。
まあ、綾小路の初釜なら以前にも顔を出したことがあり、さほど敬遠するようなことでもないだろうが、正直宴会パーティ集い嫌いな工藤にとっては是非にというシロモノでもない。
夏の軽井沢でのパーティもそうだったが、おそらく顔ぶれには財界の重鎮も含まれているに違いないからだ。
それを考えるだけでうざったいが、この際、仕方がない。
「ぜひ伺わせていただきます」
正月明けの第二日曜日だという。
「広瀬さんもぜひご一緒にどうぞ」
良太の嫌がる顔が目に浮かぶが、これも仕事のうちだ。
そういえば年明け二日からの大和屋の茶の湯イベントにも良太は行くことになっているのだったと工藤は思い出した。
next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます
