まあ、どちらも仕事だ。
工藤は紫紀との電話を終えると、良太を呼び出した。
「ああやっぱ、新幹線動いてないんじゃと思ってたんですけど……」
事情を話すと良太が心配そうな声になった。
「いくら何でも夜までには着くだろう。今夜は何か予定があるか?」
「え、今のところないですが」
「丸の内の仲通りに知り合いの和食屋があるんだが、去年オープンしてからまだ行ってない。店は『井筒』だ。一応六時くらいにどこかで待ち合わせるか」
「あ、はい、じゃ、俺、丸の内テラスあたりにいますから、東京駅着いたら連絡下さい」
良太の口ぶりが幾分トーンが上がった。
「わかった」
携帯を切って席に戻ると、少し眠っておこうと工藤は目を閉じた。
実は朝方、少し寒気がしたので、朝はほぼコーヒーくらいで終わるところをホテルのレストランでサンドイッチとスープを摂り、その後、ドリンク剤と風邪薬を買って飲んだ。
滅多に風邪など引かない丈夫な体質だが、いつぞや北海道で熱が出たことを思い出し、それこそ早めに対処した。
下手に風邪などひきこんだりした日には、だから言わないこっちゃないと良太の文句が聞こえてきそうだ。
「いくらワーカホリックだっていっても、たまには良太ちゃんとクリスマスディナーくらい当然でしょ?」
美聖堂社長斎藤に大御所俳優の山内ひとみと一緒に呼ばれるのは例年末の行事のようになっていて、その時のことだ。
甲高い声が今も耳についている。
つい数か月前、斎藤が知人に請われてその孫娘を映画のキャストとして工藤に推薦したところ、その駆け出し俳優は良太でも手に余るとんでもお嬢様で、他のスタッフや俳優陣にも影響が出ることを懸念した良太によって役を降ろされる事態になった。
斎藤はその件に関して工藤や良太に対して未だに申し訳なく思っているらしく、頼もしくなった、成長したなどと誉めそやした良太をぜひ今度連れて来いと煩い。
良太の話の流れで斎藤が席を立ったすきにひとみが言ったのだ。
「部下でも恋人でも何でもいいけど、日頃の労いを込めてそのくらいしてあげなきゃ」
「メシならいつでも連れてってる」
「ばっかね、クリスマスに一緒にいるから特別感があるんじゃない。今時、男でも若い子はそうよ」
以前にもひとみに似たようなことを言われたが、さほど気にもしていなかった。
だが、昨夜はクリスマスイブで、撮影が終わったところで、スタッフや若い俳優が相手に電話やラインをしているのをちらほら見かけた。
「悪い! この埋め合わせは絶対!」
「え、こっちに来てるの? うん、行く行く! 初めてのクリスマスだもんな」
ひとみの言うように若者にとって今やクリスマスは当たり前に恋人と過ごす日らしい。
「ここ数年クリスマスイブは必ず彼女とディナーだったんすけどね。毎年、彼女がセッティングしてくれるの楽しみにしてて」
監督の日比野までがそんなことを言った。
日比野には、結婚はしていないが長年一緒に住んでいる彼女がいる。
昨夜遅く撮影が終わったのだが、この雪で機材を積んで車で動いているクルーたちは足止めをくらい、最初日比野は工藤とともに新幹線で帰ることを考えていたようだが、彼女の都合で今夜にずれたディナーも延期になったらしい。
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