「ああ、わかった。とにかく、ゆっくり、ゆっくりでいいからな。気をつけろ、わかったな?」
携帯を切ると、朔也は難しい顔をして振り返る。
「松田さん? 車で来るの? ひょっとして」
元気が聞いた。
「ったく、あのバカ」
何もわざわざ来なくていいのに。
イブは二人で過したい、だなんて。
「おお、松田もくるのか? やつと今でもつるんでるんだ? 確か、建築事務所かなんかにいるって言っとったな。よおし、そしたらライブ終わったら、山崎とかも呼んで盛り上がろうぜ!」
朝倉はもうやる気満々だ。
この分だと、どうやら二人きりってのは無理そうだぞ、清隆。
朔也はくすっと笑う。
「松田もお仲間なん? あいつ、昔は女にふられるたびに、元気んとこきてたけど、ここんとこ見ないね。またアフリカでも行ってたの?」
歯に衣着せぬ言葉で、紀子は言ってのける。
「紀ちゃん、またそういう悪口雑言はダメ」
「だーって、事実じゃん。松田ってさ、見てくれはいいんだけど、でかい図体で猪突猛進っつーか、あれじゃ、女の子も引くよねー」
元気にたしなめられてもどこ吹く風で、紀子は付け加える。
朔也はあまりの的確さに噴き出した。
「確かになー」
「ひょっとして、あれじゃねー? ほら、あいつ、高校ん時、野村亜紀とつきあってたやろ?」
朝倉が古い話を持ち出した。
「ああ…」
あの頃の、特に野村のことは今でも、朔也にはほろ苦い思い出だ。
「野村は名古屋の短大出て、二年で嫁に行っちまったし、ひょっとして野村のことが忘れられんのと違うか?」
朝倉は一人で頷く。
「松田、あいつ、あれで、結構純情なとこあるからな」
朝倉の言葉に朔也は苦笑いする。
「野村って、今どこに?」
つい聞いてしまう。
「名古屋。子供が二人。旦那は名古屋で開業医やってる」
「よく知ってんな。何、お前も実は野村のこと好きだったりして」
ちょっとほっとした自分に、朔也は我ながら情けなくなる。
「バッカ言え!」
そう言いながらも朝倉は見事に真っ赤になっている。
「俺のカミさん、藤井康子だよ。野村と仲良かったろ」
「カミさん、藤井か。あの超明るい」
朔也は賑やかな少女を思い出す。
クラスメイトの名前があがると、当時はさほど話したことがないのに懐かしくなる。
「ええ、やっちゃんのこと知ってるの? 遠藤さん」
紀子が聞きつけて口を挟む。
「三年のとき、同じクラスだった」
「えーー、でも遠藤なんて聞いたことないよ。やっちゃんち、斜め向かいだから、仲いいんだけど」
「ああ、俺って、引っ込み思案だったし」
「うそつけ、こんにゃろめ!」
朔也の台詞に、すかさず朝倉がヘッドロックをかける。
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