「今度、やっちゃんにきいてみよ。あ、そだ、ねー元気、明日、お店お休みでしょ? スキー行くんだよね? あたしも行く。克典、明日やっぱ仕事だって」
「残念でした、明日は元気は、俺とスキーなの」
朔也は紀子にしっかと宣言する。
「遠藤さんだったんだ、先週、急に元気にスキー教えろって言ってきたのって。言っときますけど、元気に教えてもらいたいコわんさかいるんだから。一人抜け駆けは許さないわよ」
紀子は急に大きく出る。
「悪ぃな。明日はウェアとかも一緒に買いに行くことになってんの」
「初心者が元気と滑ろうなんて、百年早いんじゃない?」
互いに譲らずヒートアップする。
「元気をお前の克典とやらの代わりにしようなんざ、図々しいって」
「あんたに、克典のことをとやかく言われたかないわよ」
「たらたら、うぜぇんだよ!」
一瞬、しーんと静まり返る。
「あれ、今の台詞、どっかで聞いた……」
紀子が急に考え込む。
つい、朔也が口にした台詞。
人気ドラマの中で、朔也が口癖になっている言葉をアドリブで使ったものが評判を呼んだのだ。
普段は冷たくクールな弁護士が、往生際の悪い容疑者を追い詰める時の常套句だ。
「紀ちゃんも遠藤さんもいい加減にしなさい! よし、じゃあ、ステージ作るぞ。紀ちゃん、CLOSEDに変えてきて」
「はあい」
元気が二人の間に入ってようやくその場をおさめる。
朔也はちょっと肩を竦めると、朝倉を手伝って一緒にステージの設置に取り掛かった。
テーブルと椅子を脇に寄せてドラムスやアンプ、マイクなどをセッティングする。
「やっぱ、音、漏れないか?」
「一応、元気が壁とか全部防音にしたんや。ま、ドアや窓から多少の音が漏れるのはご愛嬌ってことで」
朝倉がにかっと笑う。
「うーーっす!」
バンとドアが開いて、大きな荷物を抱えてひょろりとした若者が入ってくる。
「おっせーぞ! 秀喜」
朝倉と秀喜がそれぞれドラムスやベースのセッティングを終え、調整を始めた頃、本物の臨時バイトが二人現れた。
一人は細い、柔なタイプの青年、一人はかなり大柄な、しかし優しげな眼差しの男だ。
「遠藤さん、正人くんとこっちが豪です。もうこの二人にバトンタッチしてやっていいですから」
「いいって。二人より三人のがいいだろ?」
「でも……」
言い張る朔也に元気は仕方ないな、とため息をつく。
「ども、遠藤です。よろしくぅ」
朔也はいつにない愛想を振りまく。
「はあ、よろしく」
「遠藤さん? ってどこかでお会いしたことありましたっけ?」
豪が紀子と同じようなことを聞いた。
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