「さあ、会ってるかもな」
会ってるじゃねーかよ。
朔也は心の中で突っ込みを入れる。
確か、坂之上豪、とか言ったっけ。
朔也の写真集を出すと事務所の社長が息巻いて、ついこの間、最近人気上昇中のカメラマンだと連れてきたのがこの男だった。
嫌だとごねまくった朔也だが、結局折れて、スタジオだけでなく、ロケ現場などにも同行して何度か撮影しているのだ。
ったく、世の中狭いぜ。
にしても、環境に溶け込むとわからないもんだな。
ま、まさかってのがあるんだろうけど。
「あれ、坂之上豪だろ? カメラマンの」
テーブルの上にトレーを置き、グラスを並べていた紀子に、朔也はボソ、と聞いてみる。
「そう! よく知ってるじゃん」
「えらく人気もんらしいからな。その人気カメラマンが何でこんなとこにいる?」
紀子はふっふっふ、と笑う。
「彼、越してきたのよ、K町に」
「ああ? また何であんなど田舎に? 仕事は向こうだろ?」
意外な答えに朔也は納得がいかない。
「見ててわからなけりゃ、あんた、相当鈍いわよ」
ひそひそ声で紀子は言い切った。
「カウンターの写真集、見てみたら?」
「ああ?」
朔也はカウンターを振り返る。
と、そこに、元気の傍にぴったり寄り添う豪の姿が。
「マジかよー」
豪の目の中からは今にもハートが飛び出しそうである。
じっと元気を、いや元気だけを見つめている。
「どういうつながりだ? あいつら」
思わず紀子に聞いてみる。
「それがさー、三角、いや四角関係ってとこ? 一平なんか女がいろいろいるみたいなのに、元気に超熱視線!」
「はあ?」
朔也は眉間に皺を寄せて、紀子を見る。
「元気に言い寄ってくんの、女の子だけじゃないもんねー、昔っから」
まあ、それはわかる気もする。
元気って時々、どきっとするほど色っぽいもんなー。
普段、渋いおっさんくさいこといってるくせに。
きっと囚われたら離れられなくなるタイプというやつだな。
妙に納得しつつ、朔也は再び元気を振り返る。
それで「GENKI」のメンバーが話していた意味がわかった。
元気に会いたいがために、わざわざこんなど田舎でライブをやるわけだ。
しかし、あの無愛想な男がねー、元気にねー。
数人で店の前の雪かきをしたが、大粒の雪がしきりに落ちてくる。
この分ではまた折を見て雪をよける必要があるだろう。
朔也は窓の外にぼんやりと視線を向けながら、この雪の中を車でこっちに山道をやって来るという清隆が通行止めとか、ならいいが、事故とか起こさなければいいがと心配になった。
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