雪の街8

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 カウンターの中に入った元気は、いくつかのオーダーをまとめて、だが優雅にこなしていく。
「おい、今日も一人なのか? バイトは?」
 店内を見回して朔也は聞いた。
「ああ、紀ちゃん、夕方からきてくれることになってんですけどね」
 のんきそうに元気は言うが、店内は一杯で、さらにドアが開いて、客が顔をのぞかせる。
「申し訳ありません、ただ今満席になっておりますので」
 元気が丁寧にわびの言葉をかけると、客は残念そうな顔で帰っていく。
 朔也は黙ってカウンターの中に入っていった。
「これ、どのテーブルだ?」
「え、また、いいですよそんな」
「借りるぜ」
 元気の言葉を無視して壁に引っ掛けてあるエプロンを取ると、朔也は手早くつけて、トレーにいれたばかりのコーヒーを載せる。
「すみません、これとこれ、右の奥です」
「よっしゃ」
 どうやらこの店にくると、朔也はにわかウエイターをやる運命にあるらしい。
 バイトの紀子にはまだ出くわしたことがない。
「次、どこだ?」
「真ん中の丸テーブルです。なんか、昼過ぎから急に混んできちゃって」
「この大雪の日に、よく出歩くよな」
 ほとんどが観光客だ土産物の袋を抱えているからすぐわかる。。
 こんな小さな店でさえ半分海外からの客というのがあり得ないと朔也はまた店内を見回した。
 一時中国人客が目立ったことがあったが、今はアジア系、中東系、欧米系、何でもありだ。
「ホイ、オーダー追加。カフェオレ一つ」
 戻る時、隣のテーブルから呼び止められた朔也は、卒なくオーダーを聞いて元気に告げる。
「今夜はパーティなんで、四時には一旦店じまいするんですけど。そだ、お腹すいてません?」
「列車の中で食ってきた。………にしても雪、まだ降る気か?」
 窓の方を見やって、朔也はふうと息をつく。
「ここ二日ほど降り続いてますよ。先週あたりまで雪なんて全然なかったのに。参りますよ」
「雪よけかぁ」
 この街に六年も住んでいたのだ、朔也にもすぐ想像がつく。
「そう。よけてもよけても積もってくれちゃって」
 客の出入りが一段落すると、「どうぞ」と元気は朔也にストレートのモカをいれてくれる。
「おや、元ちゃん、新しいバイトさん?」
 やがて入ってきたのは商店街の奥様三人組だ。
 時計屋のおかみさんがテーブルに落ち着く前に声をかけてくる。
「臨時です。いらっしゃいませ」
 トレーに水をのせ、メニューを持って朔也は早速テーブルに向う。
「えっと、『今日のブレンド』にしようかな……」
「あたし、カフェオレ」
「ブレンドにするわ。あれ、あなた、あの人に似てない? ほら、何だっけ」
 巨体を揺らして、一人の奥様が朔也に気づいてのたまう。
「ああ、そう、私も思ってたのよ、ほら、俳優で、何かのCMに出てる……」
「そう、あれ、あのドラマで、弁護士の役やってた…」
「えっと、川口………」
「そうそう! 川口朔也!」
 かしましくも逞しげな三人の婦人たちに口々に捲し立てられ、朔也はいささか閉口する。
「はは、そうっすか? えっと、ブレンド二つとカフェオレですね、以上でよろしいですか?」
 オーダーでごまかして切り抜け、カウンターに戻ると元気が笑う。
「朔也さん、なんか、ちょっと大人になった?」


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