ほんの少し届かない16

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「すまん!」
 いきなりカウンターに頭をつけんばかりに言われても良太にはさっぱり何のことかわからない。
「あのな、肇、俺お前に何もされた覚えはないけど………」
「かおりのことだ」
 肇は声を振り絞るように言った。
「かおりがどうかしたのか?」
「実は」
 意を決したように肇が続ける。
「かおりとつきあってる」
「へ………」
 それは良太にもちょっと意外だった。
「お前に早いとこ言わなけりゃと思ってたんだが、つい言いそびれて」
「なんだよ、おい、だからって何で俺に謝る必要があるんだよ。俺とかおりがつきあってたのは高校ン時だぜ? いつからだよ」
 むしろ良太は、どうやらかおりを好きらしい肇にハッパをかけようかと思っていたくらいだ。
「つい、二ヵ月ほど前」
「そうかそうか。ふーん、そんで、かおりとラブラブなイブを過ごそうって? うまくやりやがって、このやろ!」
 バシッと大きな背中を叩くと、肇は真っ赤な顔をして汗だくになっている。
 かおりの要望でイブには白馬へスキーに行く予定だと、肇はボソボソと告げてまた慌てて会社に戻っていった。
 また、飲みに行こうと言い残して。
「俺が後押しする必要もなかったな」
 何とかしてやらなけりゃととか、良太が考える必要もなかったようだ。
 はずだが、二人がうまくいったと聞かされると、一人取り残されたようでほんの少し淋しい気もする。
 これはゴールインも遠くないかもな。
 クリスチャンでもないし、恋人たちのアニバサリーなんてのも今の良太には無縁のような気もするが、夜の街で光のイリュミネーションの渦の中にいると、ほんの少し神様から幸せのおすそ分けがあるんじゃないかなんて、期待もしてしまうじゃないか。
 妹の亜弓までが新しいボーイフレンドができたらしく、イブはお父さんと二人だけよ、なんて、母親からまた連絡があった。
 どんなやつだと聞くと、『先生のお仲間ですって。大丈夫よ、亜弓のことだから』、と母親は暢気に笑う。
 父と母はまさしく夫唱婦随だし、アスカではないが周りはみんな幸せなクリスマスイブを過ごすらしいのに、と愚痴りたくもなる。
 ウキウキなクリスマスソングがかえってうっとおしくもなるというものだ。
 忙しいことは別にいいのだ。
 結婚なんて端っから考える余裕もなかったから、羨ましいという感情もない。
 ただ、言葉も交わせないのがつまらない。
 今に始まったことではないが、時々工藤から入る電話も世間話をするような感じではないし、お互いに用件だけ言うと、工藤はとっとと切ってしまう。
 あんなに忙しい工藤が、アスカの言うようにどこで骨休めをしているかわからない、とも思わないが、それより骨休めもできないでいるだろう工藤が心配なのに。
 いい年なんだからさ……
 何度も呟いた言葉を良太は心の中で繰り返す。
 どうせ、んなこと言っても聞きゃしないんだけどな。
 会えないとやっぱ、淋しいじゃんよ……………

 


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