良太はスタッフの一人を呼んで、下柳らにグラスを用意させた。
「何、工藤のやつ、いないの?」
「ええ、ちょっとはずせないアポがあって」
すぐ横に立ってこそっと聞く下柳に、良太は苦笑いする。
「良太ちゃんも苦労するな~」
「そうでも……、まだ若いですから。うちのシャチョーこそ、年も考えないで、ろくに食事もしないで飛び回ってるし……」
つい愚痴った良太の肩に下柳は腕を回してポンポンと叩く。
「いんや、あのやろうのことを心配してくれる誰かがいるってだけで、俺はよかったと思うさ。なあ、煙草の本数が減ってるんだって、良太ちゃんがうるさく言ってくれるおかげだろう? 俺ぁ、やつが携帯用の灰皿なんかを持っているのを見た日には、仰天したなんてもんじゃない。そんだけ良太ちゃんの存在は重大だってことさあね」
「そんなの……俺が言ったからなんてんじゃなく、周りの環境がそうせざるを得ない状況になっているから、仕方なく、なんですよ。忙しいと灰皿てんこもりだし」
「まあ、見捨てないでやってよ。良太ちゃんに見捨てられたらやつも終わりってね」
「な、何ゆってんですか……、俺の言うことなんか聞きゃしませんて、あの人」
下柳の言葉に良太は慌てて反論する。
そんな存在じゃないのに……。
「あいつ、最近何となく人間らしくなってきたってぇか、うん、そんなとこ? 良太ちゃんがいなかったら、いつまでたっても人間以下っつうか」
「何ですか、それ…」
しみじみと口にする下柳に良太は笑う。
そのまま目を上げた先に秋山が目で合図をしているのが見えた。
「いけね、もう時間だ。あ、でも、ヤギさん、まだゆっくりして下さっていいですからね」
良太は言い置いて、マイクが置いてある一角に戻っていく。
終わるまでに戻れたら戻ると言っていたが、どうやら工藤は戻れそうにないらしい。
「いよっ、良太シャチョー、似合うとるぞぉ」
「かっわいい、シャチョーさ~ん、こっち向いてぇ!」
工藤が急用で席を外していることを告げ、「それでは、社長に成り代わりまして……」最後の挨拶を始めると、あちこちから冷やかしの野次が飛ぶ。
それにめげず良太は挨拶を終え、手締めで締めくくる。
景気よく三本締めだ。
そういえば、初めて司会で手締めをやらされた時、一本締めと一丁締めを混同していて平造に訂正されたことを思い出した。
そういう日本のしきたりのようなことは平造に聞くに限ると良太は心に留め置いたものだ。
客がぞろぞろと部屋を出て行き、焼酎を飲んでご機嫌な下柳も残り物をたらふく平らげた村井や石川を引き連れて暇を告げ、ケータリングサービスの面々も引き上げる頃、小笠原や志村がそれぞれのマネージャーとともに帰り、翌日のことを考えて早くあがろうと言っていたにもかかわらず最後までいてくれた秋山もアスカを連れて会社を出た。
鈴木さんにも、あとの片づけは明日にしようと言って帰すと、一人になった良太はふうううと大きく息をついた。
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