ほんの少し届かない27

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      act 4
 
 
 良太が麻布にある河崎のマンションに着いたのは午後十時を回った頃だった。
「メリークリスマス! やあ、良太ちゃん、来てくれてありがとう。仕事は終わったの?」
 テンションの高い藤堂の声がドアフォン越しに聞こえてくる。
 良太がエントランスの前に立つガードマンにパーティに来たと告げると、中に入れてくれて、ドアフォンを押すように言われたのだ。
「いえ、終わってはいないんですけど、今日は一段落ついたので俺はお役ゴメンてことで」
「まあ、どうぞどうぞ、あがって」
 河崎の住むマンションはちょっとやそっとでは足を踏み入れることがない場所だ。
 ガードマンにコンシェルジュ、各々の部屋へ各々のエレヴェーター、万全のセキュリティだ。
 しかも河崎の部屋は十階建てのペントハウスフロアである。
 半地下には駐車場、一、二階は吹き抜けになっているエントランスロビーで、噴水のあるパティオをぐるりとペットを連れて寛げるスペースが囲み、ゆったりとしたソファが備えつけられている。
 三階にはお茶の飲めるラウンジが入っていて、ルームサービスもしてくれる。
 四階にはプールやジム、ランドリーサービスと管理室がある。
 五階から上が住居で、五階から八階に二戸ずつ、九階と十階はワンフロア一戸という造りだ。
 海外企業向けだから、河崎以外は日本人の入居者はいない。
 ちょうどフロアにつくと、ドアが開いて藤堂が出迎えてくれた。
 藤堂と浩輔、それに藤堂の家に同居している悠が交代で俄かバーテンダーになって、リビングの片隅にあるバーのカウンターの中で飲み物を作ってくれる。
 悠の友人たちも手伝っているようだ。
 テーブルには所狭しと美味そうな料理やスイーツが並べられ、今年も大きなクリスマスツリーがリビングに入ってすぐのところに陣取っていた。
 リビングのあちこちにちりばめられたクリスマスアイテム、ホームアローンな飾りつけは健在だが、キャンドルライトとフロアスタンドの灯りだけの、今回は大人な雰囲気で、と藤堂が言っていたように、パーティというよりはやってきた者が楽しんでいく場所を提供してくれている感じだった。
 クリエイターの佐々木や佐々木にとっては片腕ともいうべきアシスタントの池山直子もいて、良太は手招きされて挨拶を交わす。
「良太ちゃん、ひとり? アスカさんや小笠原はぁ?」
 のんびり口調で直子が聞いた。
「アスカさんは仕事の関係でパリだし、小笠原はスタジオなんだ」
「あの美人さんもいないの?」
 ああ、小林千雪のことかと良太は思う。
「残念ながら恋人とどこかへ旅行みたい」
 女性にも美人さんなんて言われたら、千雪さん、また嫌がるかも…
 しかし直子のコーデだという今夜の佐々木は、千雪とはまた雰囲気が違うが、招待客の中のモデルの一人だと言われても誰もが頷きそうにクールに美しい。
 ただおそらく佐々木も疲れているのだろう、口数も少なく良太や直子を眺めているだけだ。
「ええ、そっか~」
 その時良太はポケットでマナーモードの携帯が震えているのに気づいた。
 良太は壁際に移動して携帯を取り出すと、画面に出ているのは沢村の文字だ。
「ああ、仕事は今日は終わり。え…うん、パーティってか、……え? いや、ちょっと聞いてみないと……」
 唐突に沢村もこのパーティに行くと言い出したのだ。

 


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