ほんの少し届かない32

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「メリークリスマス」
 藤堂が言うと、良太も「メリークリスマス」とドアを閉じた。
「このワインもさっきいただいたけど、美味しかったですよ」
 機嫌よさそうにひょこひょこ歩く良太の腕を掴み、工藤はタクシーを拾う。
「お前の猫はどうした?」
 タクシーに高輪を告げてから工藤は良太に聞くが、「らいじょうぶれす……鈴木さんにお願いして……」のあとは続かず、窓に寄りかかって眠ってしまった。
 仕方なく工藤が良太の頭を自分の方に向けると、良太はそのまま工藤の膝に崩れた。
 雪は一瞬の夢のごときものだったようだ。
 外はまた雨に変わり、しとしとと降り続いていた。
 
 
  
 

 
「良太、こら、足を上げろ」
 耳元で言われて良太はぼんやり目を覚まし、言われたように足をあげる。
 途端、ズボンが引き抜かれて「寒い…」と口走る。
 けれどもすぐにまた暖かくなった。
 よく知っている肌のぬくもりとくちづけと、あれ、どうして俺……などと思ったのもつかの間、次にはそんなことはどうでもよくなって良太の体温が勝手に上がる。
 追い上げられてすぐ覚えのある甘い痛みに覚醒したものの、工藤の熱につながれてあとはひたすら愉悦を享受するばかりだ。
「……や……寝込み……襲い……やがって」
「ほろ酔い加減ですがりついたのは誰だ?」
 工藤のからかいにまた良太の体中が熱い激流に飲まれる。
「…い……あ……っ………あっ」
 揺さぶられて声を抑えることができない。
「良太…」
「……あ……ん……っ!」
 耳元で囁かれた途端、良太の意識が飛んだ。
 
 
  
 

 
 翌日、目が覚めると工藤はもう出かけるばかりのスーツ姿でベッドの脇に立っていた。
 うつ伏せになったまま、良太はぼんやりと工藤を見上げる。
「何だよ……自分ばっか、すっきりしやがって………」
 声が掠れている。
 憎まれ口を叩いたものの、工藤にすがって泣いた昨夜の己の痴態がフラッシュバックして、顔を背ける。
「いい加減に起きろよ」
 工藤はそう言ってさっさと出かけてしまった。
 目が覚めたのはいつもの優しいキスだ。
 何となく照れくさいけどメチャクチャ幸せだったりする。
 この部屋には、良太がたまにここのスポーツクラブを利用した時などのためにスーツが数着と着替えが置いてあるのだが、ちょっと恋人みたいじゃん、などと思ったりしつつ、工藤に遅れること三十分、良太も下柳チームがいるスタジオへと向かった。
 
 
 
 
 その夜、案外早く九時過ぎには会社に戻ってきた良太だが―――― 
「うそっ、間違えた!?」
 まず自分の部屋に上がった良太はドアを開けたものの、思わずまた閉じてしまった。
 フロアの階数を確認したりして、隣の工藤の部屋を念のため、スペアキーで開けてみる。
「やっぱ、工藤の部屋じゃん」
 ぶつぶつ言いながら、もう一度恐る恐るドアを開けると、なあーーーーん、と可愛いナータンがとっとこ駆けてきた。
 


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